(AH-1コブラは、いまにも襲い掛かってきそうな気配を漂わせている。攻撃の手を封じられたバウワーには、逃げの一手しかない。アクセルのペダルが二度と起き上がることができないくらいの満身の力で踏みしめると、黒いレクサスはこれまでにない加速で、まっすぐな道を駆け抜ける。小さな田舎町であるクリフトンフォージをあっという間に後にすると、古い鉄鋼の街ロングデール・ファーニスに向かおうとするが、大きくS字型にうねる道が、コブラの味方をしていた。レクサスと違って、空中をまっすぐ進むことのできるアタッカーヘリは、間違いなく、先を行くレクサスとの距離を着実に縮めてくる。このままでは、ロングデール・ファーニスに辿り着くまでに、敵方の射程距離に入ってしまう。そして、射程距離に入ってしまえば・・・。不吉な推測を吹き飛ばすために、ジャック・バウワーは踏み切ったアクセルと運命を共にする覚悟を決めた。ブレーキは使わずに160マイル近いスピードで山道をすり抜けていく。一つ間違えば、コブラのミサイルなしに、レクサスは道を外れて大破し、2人はあの世に召されてしまうだろう。ロングデール・ファーニスは1,000人前後の小さな町だ。大通りに車の影や人通りがないことを祈って、バウワーはスピードを緩めることなく、街中の大通りに突っ込んでいく・・・。)

(クリフトンフォージを秒速で通り過ぎたように、ロングデール・ファーニスの街の大通りを駆け抜けようとしたそのとき・・・、みすぼらしい雑貨屋の扉が開いて、赤い服を着た6歳前後の女の子が道に跳び出てきた! 女の子を母親が追いかけてくる。・・・危ない、っつ・・・・・・反射神経的にブレーキを踏みながら、見事なハンドル捌きで、2人を避けて通り抜けたレクサスであったが、それで失った時間は、コブラの射程距離に入るためには十分なものであった。再びアクセルをふかしたレクサスは、街の出口に向かって猛スピードで再び走り始めたが、コブラから逃げ切ることは不可能と思われた・・・。AH-1コブラは黒いレクサスにヘルファイアをロックオンする。・・・あとは発射ボタンを押すだけの態勢になった。・・・ドッツシュー・・・。ドッカーン!・・・)

(AGM-114 ヘルファイアが発射されると、見る見る間に空間を切り裂いて、目的物は完全に破壊された・・・・・・。しかし、破壊されたのは、レクサスではなく、コブラの方だった・・・・・・。「ワトニック! Thank God!」・・・バリリバリリバリバリ・・・上空には、大統領から緊急派遣されたAH-64 アパッチが、その雄姿を上空に現している。・・・険しいジャック・バウワーの表情が少し緩んだことから、危機を凌いだことを悟ったバイデンは、一層快活にしゃべった。・・・)

ふうーっ、神は、俺たち2人を見捨てていないようだな・・・。いずれにせよ、ワシントンは大童だ。誰もが、トランプが勝つのか、それとも、俺が勝つのか・・・否、オバマやヒラリーが勝つのか、情報を集めて分析して、勝ち馬に乗ろうと計算している。ワシントンで生き残るために必要なのは「勝ち組に素早く乗るための計算」だよ、「正義」じゃねぇ。半世紀もの間、そこで生き残ってきた俺が言うんだから、間違いじゃねぇ。それにしても、トランプ陣営は、着実に逆転のための手を打っているようだな。ジョン・ラトクリフが出したエリック・スウォルウェルに関するレポートもじわじわと世論形成に効いてくるだろうな。ラトクリフは、共和党のケビン・マッカーシーと民主党のナンシー・ペロシに、エリック・スウォルウェルと中国のスパイとの関係について説明したんだが、マッカーシーの野郎は、喜び勇んで、「スウォルウェルは、情報委員会に参加すべきではないし、中国スパイにやられている民主党員は間違いなく200人はいるだろう!」と煽りやがった。

それに、ホワイトハウス顧問のピーター・ナバロも、「不正選挙レポート」って奴を出すらしいぜ。ヒラリーがかなり焦ってたよ。ピーター・ナバロっていうのは、大統領のアドバイザーで、中国共産党の恐ろしさを軍事・地政学・経済から分析した「米中もし戦わば」っていう本を書いた奴だ。ヒラリーに頼まれたバラク・オバマは、12月18日に出ると言われていた「外国勢力の選挙に対する関与に関するレポート」を何とか骨抜きにしようとした。ジョン・ラトクリフの部下たちの中で、スパイ・ネットワークに所属している奴らに大号令を掛けた。必死で「中国の関与はなかった」という線でまとめさせようとしたんだ。ラトクリフは、それに気付いて、「こんな内容ではサインできない」と抵抗したが、とりあえず12月18日ではなく、1月まで公表されるのを延期させることができてホッとした矢先、ナバロの「不正選挙レポート」が出ちまった。「ノーマークだったナバロが余計なことをしやがった」とあのビッチはカンカンだったよ。

ナバロの野郎は、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの6つの激戦州にまたがる広範な「不正投票」について詳細に明記しやがった。偽の投票用紙や賄賂、死んだ投票者の票が大規模に作られ、不法滞在者などの不適格な投票者による投票や複数回カウントされた投票、違法な投票などを具体的に説明してるんだよな、これが。適切な有権者IDチェックが欠如していて、署名照合がいい加減になされていて、投票がバックデートされたり、管理できないようにぐちゃぐちゃにしたってな。選挙の監視者に監視を認めず、オブザーバーの自由を妨げることによって、「不法投票」が容易になったとも指摘してたし、ドミニオンのインチキについてもキッチリと書いてたよ。この「不正投票」の問題を報道しなかったメディアについても激しく糾弾してたなぁ。「このレポートで明らかにされている証拠や通常あり得ない事象(irregularities)を知りながら、『証拠がない』と主張するのは無責任だ」と切って捨ててたな。ナバロの「不正投票レポート」は、政府の正式なレポートだから、今後、色々なところで引用されることになるだろう。まあ、外国勢力の関与については明記していないから、これで大統領令を発動するというのはちょっと無理があるかもしれないがなぁ・・・。ただ、この公式なレポートは、「不正投票は選挙結果を覆すのに十分である」と結論付けているし、「1月20日までに調査がなされなければ、この国にはもう公正な選挙は存在しない」と断言している。こいつぁ、これから大きな影響を及ぼすだろうぜ。

(バイデンが独りでしゃべり続けている間に、トランシーバーでトランプ大統領に謝意を示したジャック・バウワーは、ノーフォーク海軍基地の近くにあるベルベディアビーチまでワトニックに護送してもらう許可をもらった。トニー・アルメイダを追って行ったコブラの所在は確認できなかったし、新たな追っ手が出現する可能性は否定できない。万が一の事態に備えて、鉄鋼板によるレクサスの装甲は解除せずに、ルート64を南に下っていく。車窓から周りの景色を眺めることができないバイデンは、話すことで気を紛らわせるしかないようだ。・・・)

どうやら、トランプは、ヒラリーやオバマたちとガチンコで戦うことになるんだろうが、そのときに最も手ごわいのは、オバマが育成してきたSES(Senior Executive Officer:上級幹部公務員制度)だろうな。SESってのは、カーター大統領のとき、1979年に優秀な民間人を行政機関に登用するために設けた制度で、大統領と各行政機関との間に入って調整する役職なんだが、そいつらは、総体で見ると200万人前後の公務員を管理している。バラク・オバマの奴は、そのSESの奴らを自分個人のために動く権力装置へと変貌させやがった。あいつは、8,000人のSESのうち6,000人以上を自分の腹心に入れ替えやがったんだよ。しかも、年俸13~20万ドルにまで給料を引き上げただけでなく、大統領令を発して、彼らの解雇を難しくした。これで、クビにすべきときも、クビにするのではなく、他のSESのポジションに異動することになった。いわば、終身雇用制なんだよ。そいつらが、トランプ大統領のためではなく、いまでもオバマのために働いている。

オバマは、米軍の人事にも手を入れた。9人の上級司令官、2人の核となる司令官、197人の上級将校・将軍・海軍将官、そして数千人の士官を入れ替えることで、指揮構造を根こそぎ破壊したんだ。オバマのネットワークは、司法省やFBI・CIAだけでなく、SESを包含するものであり、軍の一部にも影響を及ぼしている。アメリカ合衆国における行政機関のすべてに深く届いている。だから、報告書一つ出すことさえ、ラトクリフが苦労するわけよ。バラク・オバマは、諜報機関や軍隊を含むすべての政府機関から、愛国者たちを粛清し、オバマには忠実だが、国や憲法を無視する政治工作員に置き換えていった。これは、アメリカ合衆国の乗っ取りと言ってもよい企みだったなぁ。オバマが創り上げた権力装置は、事実上の「第4の権力」となり、トランプの政策を公然と破壊し、妨害しながら、独自の政策を決定し実行している・・・。トランプも苦労するよなぁ・・・。

(黒いレクサスは、ワトニックが操縦するAH-64 アパッチに守られながら、ルート64をリッチモンドに向かっていく。南北戦争時代の勇将であるストーンウォール・ジャクソンが眠るレキシントンを越えて、第3代大統領トーマス・ジェファーソンが設立したバージニア大学で有名なシャーロッツビルに入った。ジェファーソンの邸宅モンティチェロは、世界遺産にも選ばれており、観光客も多い街である。著名な美食レストランがあることでも知られていたが、装甲で身を包んだレクサスと轟音を撒き散らすアパッチのアベックは、明らかに場違いであり、そそくさと最終目的地に向かった。)

――「24-Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第40話(2/11予定)」に続く。