(ジャック・バウワーは、すばやくカーキ色のリュックの中身を確認した。手榴弾は数発残ってはいたとはいえ、精鋭の傭兵たち数名と戦うには心もとない。多勢に無勢であることを考えれば、なんとか窮地を凌いで時間を稼ぎ、トランプが送ってくれる援軍を待つしかなかった・・・。ジャックは、自分が持っていたスミス&ウェッソンをバイデンに手渡すと、リュックに入れて持ってきたウィンチェスターM1897トレンチガンを手に持つ。防弾ベストを貫通するフレシェット弾を3発だけ銃身に込めると、残りの弾をポケットに突っ込んだ。取り敢えず、一度に複数の敵を倒すことができるショットガンで戦うしかない・・・。「ここでじっとしてろ・・・」 ジャックは右手でバイデンを制すると、摺り足で音もたてずに走り抜けると、窪地の反対側にある茂みの中に身を隠した。・・・)

(木々や草々の中に巧みに身を隠したジャックが、ひそかに双眼鏡で様子を窺うと、300m先の地点において、2人の兵士が周りを窺いながら慎重に接近してくる姿を確認することができた。迷彩服に身を包んだフル装備の男たちだ。黒塗りのヘッドセットのインカムで密かに連絡を取りながら近づいてくる。インカムを付けているなら、他にも部隊がいるはず・・・。注意して周りを窺うと、始めに見つけた2人から150m東の方向に離れて、同じ格好をした2人が隊列を為して前進している。さらに慎重に見渡すと、200m西の方向で2人が状況を窺っていた。自動小銃のブローニングM1918の中でも威力の強いあるコルト・モニターを携行しているようだ。6人か・・・。真夜中の戦闘ではなく、しかも、2人1組になっていることを考えれば、1人1人知られずに片付けていくことは不可能と言える。ジャック・バウワーは、圧倒的に不利な局面における戦い方の中で、最善の戦法を最大速度でシミュレーションする・・・。その頃、窪地に潜んだままのバイデンは与えられた拳銃を握りしめて、迫りくる恐怖に耐えながら、否、凄まじい恐怖に耐えるために、ヒラリー・クリントンに対する恨み節を独りつぶやき続けていた。・・・)

あのビッチめ! 自分が危ないと思うと、後先考えずに、関係者を片っ端から殺しやがって、次は「俺の番」ってわけか? あのババアは、累計でもう50人近くは殺しているんじゃねぇか! 俺は知ってんだぞ!・・・アーカンソー時代に不動産ビジネスのパートナーだったジェームス・マクドゥガルが、不正取引で服役しているときに、持病の心臓発作が起こったとき、わざわざ遠くの病院に運ばせて対処を遅らせただろ、お前は・・・。本当は、AEDが刑務所に常設されてたから、そこで対処すればいいだけだったのによぉ。そうそう、「ホワイトウォーター疑惑」って呼ばれていた事件だ。ビルとヒラリーの不正取引の証人として、マクドゥガルが証言する予定になったんだが、その途端に、心臓発作の対処が遅れて、あいつは死んじまった。あれは、あのババアの仕業だと俺は睨んでいる・・・。「ホワイトウォーター疑惑」に関して情報を持っていたと公言していたジョン・ウィルソンだって、なぜか自宅で首つり自殺した。あいつは、ワシントンで20年の経験を持つベテラン政治家だったんだぜ。この事件だって怪しい。・・・

ビル・クリントンの幼なじみで、ローズ法律事務所でヒラリーと同僚だったヴィンス・フォスターも悲惨だった。ビル・クリントンの大統領就任に際して次席法律顧問に招かれた後、ヒラリーの様々な疑惑処理に関わることになり議会で追及されたんだが、ヒラリーに不利な証言を行う予定になった途端に、謎のピストル自殺を遂げたんだよなぁ・・・。クリントン夫妻の秘密を握っていたとみられるジェイムス・バンチって奴も、なんか変な自殺だったよ・・・。ホワイトハウスのインターンだったメアリー・マホニーもかわいそうだった。ビル・クリントンを罷免しようとする検察官の証人として、ホワイトハウスで受けた性的嫌がらせを証言する予定だったんだが、スターバックスでアルバイトしていたところを、閉店直後に同僚2人とともに射殺されたんだっけ。未だに、なぜ殺されたのかは分かっていない。4,000ドル近い店の現金は手付かずだったんだからなぁ。ビル・クリントンのセキュリティ・チームの責任者だったジェリー・パークスも訳の分かんない死に方をした。運転中、交差点を曲がるときにスピードを緩めたところで、銃撃を受けて死んだ・・・。この事件も、何も盗まれちゃあいない。あの夫妻に絡んでさえいなかったら、殺される理由なんて持たない善良な市民が次々に死んでいくんだ・・・。

とにかく、あのビッチの周りには、不審な死が多すぎる。クリントン政権下で商務長官を務めていたロン・ブラウンは、空軍機でクロアチアに向かう最中、飛行機が航路を誤り山に衝突して、おっ死んじまった。ブラウンは、ビル・クリントンとともに、エンロン社との不正取引を疑われていたんだが、そのブラウンは「検察と取引することを決心した」と仲間に話していたよ。ところが、その直後に死んじまうんだ。それに、飛行機事故による死亡のはずなのに、銃弾による傷に似た穴が頭蓋骨にあったらしい。事故前に、飛行機のナビゲーション機器が盗まれたという不思議な事件もあった。そして事故の3日後、ナビゲーション機器の取り扱い責任者が空港で謎の自殺を遂げたという話もあった。とにかく怪しすぎるんだよ、あの夫婦は・・・。そういえば、ビル・クリントンの資金調達を担当していたビクター・レイザー・Ⅱも、アラスカで自家用機が墜落し死亡したっけな。資金調達のナンバーツーだったエド・ウィリーも謎のピストル自殺を遂げたっけ。ビル・クリントンの戦略ディレクターだったポール・タリーも、アーカンソー州のホテルで死体で発見された。48歳で健康体だったのに、心臓発作で死んだっていうんだからなぁ・・・・・・。畜生っ! お、俺は・・・俺はやられねぇぞ!

(迫りくる恐怖を消し去るための老紳士の独り言は、自分自身を奮い立たせるために、必死で唱えているうちに、いつの間にか、わずかながらではあるが音量が上がっていた。極めて微量ではあるが、迫りくる敵の耳にも聴こえるレベルに達してしまった・・・。いち早く気付いた正面の2人のうちの1人がインカムを通じて西側の2人に合図を送る。次いで東側の2人には、窪地の背後に迫るように指示を出した。西側の2人はバイデンが隠れている窪地にジリジリと進んだが、結果的にバウワーに背を向ける格好のポジションに位置することになった。・・・彼らは、密かにバイデンが潜んでいる窪みに接近していく・・・。一歩、二歩・・・。微かに気配を感じたバイデンの細い視野は、瞳の片隅で、迫ってくる西側の1人の姿を捉えた・・・。その瞬間、ワシントンで半世紀サバイバルしたベテラン政治家は、明日における自らの生き残りを賭けた。窪みの壁にピタリとわが身を押し付け、可能な限り身体を隠しながら、ひそかに接近してくる敵に向かって、右手に持ったスミス&ウェッソンを1発ぶっ放す!・・・バンっ!・・・)

(ジョン・バイデンが意を決して動いたその瞬間、バウワーは、手榴弾を東側の2人がいる方向に投げつけた。手榴弾が宙を舞っている間に・・・ドゥン・・・、西側の2人を背後からショットガン1発で殺し、次いで、・・・ドゥン・・・2発目で正面の2人を同時にぶっ倒した・・・。ババーン・・・。豹のように敏速なバウワーは、宙から降りてきた手榴弾が炸裂する合間に右に跳んで前転し、素早く立ち上がった。・・・ドゥン・・・、東側の2人のうちの1人を気合を込めた3発目であの世に送った。しかし、残りの1人の行方が知れない。ウィンチェスターM1897トレンチガンの連射は3発が限界である・・・。バウワーは、神業のような速さで、次の弾込めのアクションに移行し、新たな闘いの準備を完了した・・・。)

(・・・が、その瞬間、冷たく硬い銃口が、ジャック・バウワーの背中に押し付けられた。手に持ったショットガンとフレシェット弾を素早く地べたに投げ捨てたジャックは、無言でゆっくりと両手を後頭部に回し、さらにゆっくりとした動作で、地面に両膝をつく。窪地の向こうから、仕留め損ねた東側の1人が近付いてきた・・・。途中でバイデンの存在に気付いたその男は、窪地に隠れていた老人を、コルト・モニターの銃身で突き、ジャックの側に行くように促す。拳銃を放り投げたバイデンは、ジャックの近くにまで歩み寄ると、ジャックの横で、無言のまま真似をして、後頭部に両手を回し、地面に膝をついた。張り詰めたジャック・バウワーの五感は、背後に少なくとも2人の気配を感じている・・・。この状態で3台のコルト・モニターから狙われていては、幾度も死地を切り抜けてきたジャックといえども為す術がない。先刻トランプ大統領に救援を依頼したとはいえ、あの直後に、ワトニックが率いるネイビーシールズが出撃したとしても、ここに着くまでには少なくとも2時間前後は必要だと思われた・・・。まさに万事休すであった。・・・)

――「24-Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第31話(1/31予定)」に続く。