(カーオーディオの主役は、ジョン・レノンから、ポール・マッカートニーに替わっていた。イングランドの街に住んでいた「ハニー・パイ」という歌のうまい女の子がアメリカのハリウッドへ行って映画スターとして成功したが、その恋人だった男が「今すぐ戻ってきてくれないか?」と懇願するという物語の歌だ。“She was a working girl, North of England way. Now she's hit the big time in the U.S.A.・・・” ポールの大ファンのバイデンは、メロディに合わせて、鼻歌を歌っている。万事がうまく行ったという手応えを感じたんだろうか・・・。)
ただよぉ、ミッチによれば、習近平は、トランプの反撃に備えつつあるようだぜ。11月25日には、自らが主席を務める中央軍事委員会の訓練会議では、実戦と同じ条件で戦争に備えるため、兵士たちの訓練を強化するように指示したし、「戦争に勝利するためには、死も恐れてはならない」と喝を入れたらしい。中国軍は、200万人の現役兵がいて、予備役をいれると250万人もの規模になる。すでにすべての軍隊は臨戦態勢に入っていて、中国南西部の国境地帯では、中国軍とインド軍が睨み合っているし、航空部隊は台湾の上空を飛行し、海軍の艦船は南シナ海を航行している。あいつは、「人民解放軍は、新たな時代に突入する」と檄を飛ばしているが、あいつのいう「新たな時代」というのは、米国軍を優越して、中国軍が「世界第一の軍隊」になることを意味してんだよな。しかし、そうなると、俺たちの軍隊との衝突が避けられないことになる・・・。
衝突を覚悟したあいつは、年初に、中国海軍南海艦隊に所属するミサイル駆逐艦など4隻からなる「遠海統合訓練編隊」で、南シナ海から太平洋へ展開する遠海訓練を行ってたよ。南シナ海からバシー海峡を通過して太平洋へ進出してから、東方へ進路をとらせた。そして、日付変更線を越えて、ハワイの西方沖300キロまで迫るという行動に出たんだよな。じつは、中国の艦艇編隊が「戦闘準備訓練状態」で日付変更線を越えたのは初めてなんだ・・・。そこで、「艦載ヘリコプターによる西半球における初めての夜間飛行を実施したぜ」と言って、習近平は、俺に自慢してたよ。俺は「止めとけ」って言ってたんだがな・・・。あいつの布石は、すでに昨年6月に打たれていた。中国の空母「遼寧」を中心とした6隻の艦艇からなる編隊をグアム沖まで展開させたんだ。西太平洋における米軍の優位を打破するという大望を実現するために、あいつは着々と軍事的プレゼンスを強化し続けた・・・。
(2人の乗るパジェロは、競走馬の生産で知られるレキシントンを抜け、ウエスト・バージニア州の州都チャールストンに向かう。晴天のハイウェイを100マイルに近いスピードで駆け抜けていく白い弾丸を遮るものはいまのところなかった。ガス切れに備えて、一度は、ガソリンスタンドに寄る必要はあるだろうが、フル稼働を続ける4WDの調子自体は、極めて絶好調だった。・・・)
じつはよぉ、あまり報道されてはいないが、米軍と中国軍のちっちゃな衝突は、年々激しさを増している。今年の2月17日に、グアムの西方約600キロの海域で、中国海軍の駆逐艦が米海軍の哨戒機に対して軍事用レーザーを照射した事件のことは、お前なら知っているだろう。一つ間違えれば、軍事衝突だよ。俺たちの太平洋艦隊は、「危険かつ非プロフェッショナルな行為だ」と強く批判したが、中国の国防部は、公海において訓練中の中国海軍編隊に対して、米軍哨戒機が長時間にわたって低高度の偵察飛行を行い、中国の艦艇と乗員の安全を危険にさらしたと反駁し、米軍機の行動こそ「非友好的かつ非プロフェッショナルだ」と逆切れした振りをした。完全な茶番劇だがな。しかし、軍事用レーザーを照射した ―― 撃墜するための準備をするところまで行ったことは事実だ。何かの拍子で予期せぬ事故が起これば、戦争になることだって、完全には否定できないんだ。・・・
米軍の哨戒機にレーザーを照射したのは、ハワイ沖から南シナ海へ向けて転進していた中国のミサイル駆逐艦だったよ。そして、この駆逐艦を監視していたのは、沖縄の嘉手納基地に配備されていた米軍の哨戒機だった。本当に緊迫した瞬間だった。一つ間違えば、撃墜されることだってあったんだからな。その割に、日本政府はのほほんとしてやがった。日本と韓国との間で同じような事故があったときは大騒ぎしたくせに、主要メディアは米軍と中国軍との衝突というこの大事件を報じず、4月になって夕刊フジというタブロイド紙がちらっと触れただけだったらしい。どうも日本のマスコミは、すでに相当、中国のカネで飼い慣らされちまってるようだな・・・。いずれにしろ、こういう状況が続けば、いずれ本当の軍事衝突が起こってしまう。そうなったら、取り返しがつかなくなる。俺は、最後の最後まで「俺には務まらない」と思って、大統領になることを躊躇していたんだが、最後の最後にオバマやヒラリーの神輿に乗ることを決めたのは、トランプじゃなくて、俺が大統領になれば、習近平との軍事衝突を避けられるんじゃないか、と思ったからだったんだがなぁ・・・。
(老政治家は、ジャックから顔を背けて、車窓に広がる無機質なビル群を眺めた。バイデンの瞳が一瞬潤んで見えたのは気のせいかもしれなかったが、ジャック・バウワーは、この男の明晰な分析に心の中で舌を巻いていた。とても、「認知症」の老人が為せる技ではない。ジャック・バウワーは、じつは、バイデンの「認知症」的な物言いは、自分自身をカムフラージュするための自虐的なテクニックなのではないか、と独り疑っていた。自分自身がトップのタイプでないと認識していたバイデンは、ライバル視されて、周りから潰されないように、ある意味で「認知症」を演じていたのではないかという疑念だ・・・。あの隠れ家や今回の中国の連絡係にしても、単なる「認知症」にはできない芸当である。そして、隠れ家における武器のラインナップがあまりにも見事であったこと、さらに言えば、逃走用のパジェロが完璧に整備されていたこと・・・そして、ガソリンも満タンであったこと・・・等々からみて、相当緻密な計算と実行が伴わなければ、できない所業だったからだ。・・・)
(バイデンは、自分がトップの器ではなく、「ナンバー2」が似合っていることを自覚していたのではないか・・・。だからこそ、まかり間違ってトップに祭り上げられることのないように、時折「認知症ネタ」を披露して、自分に対する期待が一定以上のレベルを超えないように自らコントロールしてきたのではないのか・・・。ただ、そのキャラクターの軽さが裏目に出て、担ぎやすくてコントロールしやすい神輿として、オバマとヒラリーに指名されてしまったのではないのだろうか・・・。憶測は憶測を生み、類推は類推を呼び、疑惑は疑惑を招く。隣の男の真の正体を見切ることができないバウワーは、そういう心の乱れをおくびにも出さず、老紳士が話を続けるのを忍耐強く待った。)
まぁ、いずれにしろ、トランプの続投は確定的だから、俺が大統領になる目はないわけだがな・・・。そのトランプは、すでに11月半ばに、米国防総省が「中国軍の支配下にある」と指摘する中国企業31社への投資を禁じる大統領令に署名しちまった。それで、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)や航空機製造大手の中国航空工業集団を対象に含むこの禁止令は、来年1月11日には発効するわけさ。さらに、トランプは、中国企業89社について、米国の製品や技術の購入を禁止することも検討しているらしい。すでに、12月3日には、中国共産党員とその家族を対象に発給する商用ビザと観光ビザについて、アメリカに滞在できる最長期間をこれまでの10年から1か月に短縮することを発表したし、中国共産党の統一戦線工作部の関係者や政府当局者については、ビザの発給を制限するだけでなく、米国国内の資産を凍結することも決めたようだ。もはや「米中戦争前夜」って感じだよ・・・。最悪の事態に発展しなきゃいいがなぁ。江沢民一派に対するミッチの工作が間に合えばいいんだが・・・。
(車内で交わされている重い話題には場違いなポールの明るい声が軽く響く。“Honey pie, you are making me crazy. I'm in love but I'm lazy. So won't you please come home.・・・” バイデンの話を聞き続けていたジャック・バウワーには、バイデンが習近平のことを歌った曲のように聞こえてくる。「ハニー・パイ」は習近平のことで、バイデンは習近平に首ったけだったが、鈍くさくてなかなか習近平のスピードについていけなかった。それで、「昔に戻ろうよ(please come home)」と問いかけているみたいに聴こえてしまうのだ。・・・歌を聴きながら唇をニヤリと曲げた左側の向こうにガソリンスタンドの大きな看板が見えてきた。バウワーは、アクセルを踏みっぱなしだった右足を緩めて、巡航速度に落としたうえで、駐車できるスペースを探したが、混んでいて空いているスペースがない・・・)
(さて、どうしようか、と思案に入ろうとしたとき、ジャック・バウワーのすべての五感が警戒警報を発した。耳に覚えのあるあの音が迫ってきたからだ。バリバリバリバリ・・・。Damn it ! バイデンがハリスからもらった御守りの中の発信機は壊したはずだが・・・。さてはっ!。・・・バイデンっ、お前の携帯を壊して投げ捨てろっ!・・・事実として、老紳士が持っている紺色の携帯は、バイデンの選対事務所のスタッフが手渡したものだった。そして、用意周到な敵方がGPSを使って、バイデンの移動地点を常時モニターしていた可能性を否定することはできなかった。・・・)

コメント