【新聞に喝!】「トランプ再選」信じる人々 陰謀論には事実で対抗を ブロガー・投資家・山本一郎

11月21日、米南部アトランタで、大統領選の結果に抗議するトランプ大統領支持者ら(ゲッティ=共同)
11月21日、米南部アトランタで、大統領選の結果に抗議するトランプ大統領支持者ら(ゲッティ=共同)

 米大統領選について、日本でもなお「トランプ大統領は不正選挙の犠牲となって再選を逃した」とする陰謀論が多数語られています。産経新聞が報じた「トランプ陣営、集計機の不正めぐる陰謀論を展開した弁護士を弁護団から放逐」(「産経ニュース」11月23日)の記事に対しては、いまだに不正選挙が暴かれて選挙人が動くことでトランプ氏が再選を果たすと信じる日本人が、ネット上でやれフェイクニュースだ、産経は米民主党に迎合したなどとするハレーションが多発しました。思い通りにならない現実を糊塗(こと)するような、都合は良いが裏付けのない出所不明のニュースにしがみつく人たちが少なくないのは驚くばかりです。

 そればかりか、不正選挙によるバイデン氏の大統領就任を阻止するために米軍が動いている、ドイツで銃撃戦が起きているといった陰謀論ベースのフェイクニュースが次々と量産されています。米国でも似たような陰謀論が生じ、わざわざ陸軍長官と陸軍参謀総長が「選挙の結果を決めるのは軍の仕事でない」と戒厳令を求める人々に対し明確に否定するコメントを出すに至りました。共和党側が優勢な米最高裁がトランプ大統領に有利な判断をすると観測する向きもありましたが、最高裁に文字通り瞬殺されて、来年1月20日の大統領任期までに政治的には当然ながらバイデン政権へ移行する予定です。

 このようなフェイクニュースが流れるのも、政府による検閲や統制ができない民主主義特有のコストなのだ、と割り切ることも簡単ですが、さすがに見かねてSNSなどプラットフォーム事業者もフェイクニュースの拡散に対し発信の制限や削除をする方針を打ち出しました。本来であれば情報の流通を担うだけのSNSが、独自の検閲を行うなど言語道断のはずが、いまやどんな情報が流れるのがふさわしいのか、SNSが先回りして選別しなければならない世の中になりつつあります。

わが国でも、いまだにトランプ大統領の勝利を信じ、月刊誌やネット番組で陰謀論に満ちたフェイクニュースを流し続ける「識者」も少なくありませんが、不確かな情報が流れ信じられてしまう原因と責任の一端は既存メディアや私たち記事を書く側にもあります。読者に喜ばれなければ売れませんが、読者を喜ばせたいがために事実を曲げて報じることのないよう、切に襟を正し、裏付けのある情報でメディアは陰謀論に対抗していかなければなりません。

【プロフィル】山本一郎

 やまもと・いちろう 昭和48年、東京都出身。慶応大卒。専門は投資システム構築や社会調査。情報法制研究所事務局次長・上席研究員。次世代基盤政策研究所理事。
https://www.sankei.com/column/news/201227/clm2012270003-n1.html