(耳奥に仕込んだインカムからトニーの声が響く――「ジャック!敵襲だっ!」・・・小型スクリーンに映っている3機はヘリコプターだった。ただし、トニー・アルメイダが操縦しているHH-60 ペイブ・ホークとは異なり、攻撃用に設計されたアタッカーヘリだ。いざ本格的な戦いになれば、物資輸送や隊員輸送が主目的のペイブ・ホークでは勝負にならない。そもそも、ペイブ・ホークは、ブローニングM2重機関銃を搭載してはいるが、射撃手がいなければ撃つことができない。乗員がトニー1人では攻撃できないのだ・・・。その一方、敵方は、攻撃性能の高いAH-1コブラ3機だ・・・。乗員2名のコブラは、前席に射撃手、後席に操縦士が縦一列に搭乗するタンデム式コックピットを採用しており、機首下に機関砲を搭載している。20mm機関砲やTOW対戦車ミサイルなどを武装しているコブラが相手であり、しかも3機で来ているとなると、包囲網を突破することは容易ではない・・・。)
(ヘリの機体に「S.W.A.T.」の文字が見える・・・。Special Weapons And Tactics・・・FBIの攻撃部隊だ。ということは、スパイ・ネットワークの主であるバラク・オバマもバイデンを抹殺する方向で動き出したのか・・・。ジャックは、ダッシュボードの中の隠しボタンを押すと、素早く装甲車バージョンに切り替えた。CTUのメカニックがチューンナップしたレクサスは、たちどころに、窓ガラスの外側に鋼鉄の厚い膜を貼り、フロントガラスもジャックが前方を見渡すための覗き窓を除いて、フルに防御を固めていく。十数秒もかからないうちに、鋼鉄の鎧で身を固めた黒いレクサスは、20mm機関砲に耐えられる装備を整えた・・・。ただし、対戦車ミサイルが命中すればタダでは済まない・・・。「トニー、プランZで行くぞっ!」―― 気迫を込めた叫び声が車内に響いた。ジャックの気配から、ただならぬ事態を理解したバイデンも気が気ではない・・・。)
なにぃっ、今度は一挙に3機だと・・・。しかも、攻撃用ヘリだって・・・。勘弁してくれよぉ。完全に俺たちを殺しに来てやがるじゃねぇか! ヒラリーだけじゃなく、オバマも、俺を見捨てたのかぁー! 俺を切ったのか! 俺も最近のニュースを観てて、いや~な感じがしてたんだよ。俺の息子に係るあの事件のことを、あのCNNまで報じるようになってきてやがったからな。「来年の1月20日に、俺が大統領になるまでは一切報じない」という約束を、ジェフ・ザッカーの野郎が反故にしやがった。そもそも、大統領選があるから、俺の息子に対する捜査はずっとペンディングになっていた・・・。それなのに、最近また再開したという話を聞いたときから、うさんくさいとは思ってたんだよ。捜査の焦点は、息子が関わっていた中国のビジネスで、俺は捜査対象になっていないという話なんだが、デラウェア州の連邦地検が内国歳入庁(IRS)やFBIの協力を得て、捜査を進めていやがる。メインは、中国での取引に関して税法や資金洗浄法の違反を調べるという話なんだが、そこは鉄壁の守りを敷いている。捜査対象の一つに、2017年に中国企業幹部から受け取った2.8カラットのダイヤモンドがあるというが、そんなものちゃんと処理してるさ・・・。
そんなテクニカルなことよりも、大事なことは、要は、オバマやヒラリーが俺を切りに来ているってことだよ・・・。今回の「不正投票」は規模から言っても、その悪質性から言っても、隠しきれるもんじゃない。誰かに責任を負わせなければならない・・・。あいつらは、そのスケープゴートを俺に決めた、っていうことなんだろう。元々、あいつらの意中の大統領は、カマラ・ハリスだったからな。俺なんて、いつかお払い箱になる運命だった・・・。俺もそこまでバカじゃないから分かってたさ。だってよ、TIME誌の表紙の写真を見たかい! あの「パーソン・オブ・ザ・イヤー(Person of the Year)」の表紙だよ! 大統領選があった年は、次期大統領の肖像を掲げるというのが通例になっているやつだよ。だから、2012年はバラク・オバマだったし、2016年はドナルド・トランプだった。それが今年の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」は、俺とカマラ・ハリスだったんだ。俺は、副大統領になる2008年のときも、再選の2012年のときも、表紙には載ってねぇ。マイク・ペンスだってそうさ! 「表紙を飾るのは大統領だけ」って決まっているのに、俺のときだけ、2020年の表紙だけ、副大統領の顔が一緒に掲載されているんだ。要するに、俺はすぐに捨てられて、カマラが大統領になるというストーリーなんだろう・・・。都合の良いときだけ、好きなようにこき使いやがって、要らなくなったらポイ捨てかよっ!
(敵機の来襲に備えなければならないバウワーに、バイデンの泣き言を聴いている暇はなかった。「トニーっ、敵機がこっちにミサイルを発射する前にプランZで凌ぐぞ!」――ジャックは、ダッシュボードの特殊パネルをオープンして、画面に映る敵機の10m手前の空間に照準を合わせた。「3、2、1、GO!」――ジャック・バウワーの掛け声に合わせて、レクサスのルーフに組み込まれた砲台から発射された特殊な閃光弾は、予定通り、敵機3台の10m手前で目も眩む白色の光を数秒発した後、非常に分厚くゆったりと漂う半径15m以上の球体状のどす黒い煙幕となって、3機の操縦席の視界を束の間遮断した。・・・その瞬間に加速した黒いレクサスは、一気に敵機3機との距離を詰めて、先ほどの砲台の右隣にある砲口から、AH-1コブラの操縦席に向けて、特殊な弾丸をぶちかました。破壊力に欠けるこの弾丸は、操縦席のフロントガラスにぶち当たると、ガラスの硬さに一瞬たりとも勝ることなく、柔らかく破裂する・・・。その瞬間、弾丸の中身の特殊な黒い塗料が飛び散り、操縦席を包み込むと、1機のコブラは、完全に視界を失った。的確な状況判断と迅速で繊細な操縦を必要とするヘリコプターは、こうなると弱い。1台のコブラは、緊急着地を目指して、ゆっくりと降下を始めた・・・。)
(残る2機のうち最も上空にいたコブラは、どす黒い煙幕が晴れていく合間に、トニーが操縦するペイブ・ホークが真正面に来ていることに気付く。戦闘態勢を整えるべく、さらに上空に駆け上ろうとする動きに気付いたトニーは、ペイブ・ホークに突っかかる振りをしながら、踵を返して逃走態勢に入った・・・。トニーのヘリに攻撃能力はない。しかし、乗員数を知らない敵は、その事実を知らない。トニー・アルメイダの役割は、ジャックたちの逃走を助けるために、敵の戦力を分散させることにあった。いまできることは、囮になって、残るコブラの2機のうち1機をレクサスからできる限り切り離すことしかない・・・。いかにも攻撃を仕掛けるようなふりをしながら、先方の攻撃をかわしつつ、遁走する。その大事な役割を、トニーは見事に演じていた。その間に、バウワーはアクセルをフルに踏み込み、160マイルに近い猛スピードで脱兎のように逃げ出す。どす黒い煙幕が晴れていく時間が稼いでくれた数十秒を使って、黒い弾丸と化したレクサスは、あっという間に、コブラ1機を現場の上空に置き去った・・・。この「プランZ」がジャックとトニーによって見事に演じられている間、密閉された車内で、ベテランの政治家は、年甲斐もなく泣きじゃくりながら、大声で吠えまくっていた・・・。)
オバマーっ、覚えてろよ! 俺を「当て馬」にしやがって、最初から、大統領選が終わったら、俺の梯子を外して、カマラ・ハリスを初の女性大統領に押し上げる肚だったんだな! 俺を、この俺を、数々のスキャンダルから守る振りをしながら、大統領の就任が決まったら、スキャンダルまみれにして、俺をスケープゴートにして、「不正投票」の責任も全部押し付ける算段だったんだな・・・。俺が一人で計画して、俺が一人で実行を命じたことにして、安全地帯に匿っていたハリスを大統領にするという筋書きかよぉ! ふざけんな! カマラ・ハリスなんて、長老のウィリー・ブラウンをたぶらかして、猛スピードで出世したビッチじゃねえか! カリフォルニア州議会の議長だったブラウンは、弁護士としても有名で、ロビイストたちや、色々な業界から手数料を受け取っていた「やり手の政治家」だった。俺と同じで「政治力による錬金術」に長けたベテランさ。カリフォルニア州弁護士会や公正政治活動委員会、FBIからも調べられたことがあるが、全部凌ぐやり手だった。清濁を併せのむ器を持った男だったよ。そういう意味で、あいつは「大物」だった・・・。
そのカリフォルニアの大物に、目をつけたのがカマラだった。ウィリー・ブラウンは結婚していたのに、若さと美貌を売りにして、一直線に落としに行った。ブラウンは当時60歳で、カマラは29歳だったんだぜ。ブラウンはハリスの父親より2つ年上だった。まあ、不倫ってやつだよな・・・。ほどなくブラウンは、カマラとデートを始めたんだが、サンフランシスコ中で話題になったもんさ。カマラは、すぐに、見返りを得た。ブラウンのおかげで、あっという間に州政府の2つの関連組織で要職に就いて、どちらとも非常勤なのに合わせて年収が20万ドルを超えたんだぜ。ブラウンは、その後1995年にサンフランシスコ市長になるが、その後もハリスを支えた。カマラ・ハリスが現在のようなポジションに登り詰めたのは、ウィリー・ブラウンの地盤を使わせてもらったからさ。その代わり、サンフランシスコ地区検事を7年務めた後、カリフォルニア州司法長官を6年務めたハリスは、その間、職権を乱用し、自分やブラウンを支援する仲間たちや会社への刑事訴追を見送った・・・。あいつだって、決して、清廉潔白な女じゃねぇんだよ。
(泣きじゃくる老いた同乗者に憐憫の情を感じないわけではないが、ジャックから見ても、長期政権を担うには、ジョー・バイデンのスキャンダルは多すぎた。とはいえ、最初から、カマラ・ハリスを大統領候補として推しても、幅広いウィングを持つ民主党の力は結集できなかったに違いない。民主党の中に敵が少ないから総力を結集することができて、カマラ・ハリスにつなぐ軽い神輿として最適だったのが、この男だったのだろう・・・。ただ、コブラが迫っている今、感傷や推測に浸っている暇はない。猛追してくる1機のAH-1コブラを振り切るために、2人を乗せた黒光りするレクサスは200マイルを目指した。)

――「24-Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第37話(12/24予定)」に続く。

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