Scott Ritter:WEST メディアは「ワグネルは、ロストフの人々からヒーローとして迎え入れられた」という報道を繰り返しているが、それは事実と異なる。ワグネルがロストフに来たとき出迎えたのは好奇心の強い一部の人たちにすぎず、多くのロシア人は「何をしに来たんだ」「面倒を起こすな」と抗議していた。

ワグネルは「軍」ではない。民間軍事会社にすぎない。したがって、ロシア国内で活動することはできず、ロシア国内で駐留すること自体が「犯罪」に相当する。ロストフの人々がワグネルを歓迎したのは、ワグナーが円満に退去を決定したからであり、必要のない内戦を回避できたからだ。ワグネルが歓迎されたのは「退去するとき」であり、「占拠したとき」ではない。

ロシア国防省は、ワグネルのような民間軍事会社を組織化して、完全な指揮下に置くという計画を着々と進めていた。個々の民間軍事会社は、7月初までに国防省との契約を締結するか否を迫られていた。ワグナーからの収益が自分のビジネスの主な資金源になっているプリゴジンは、国防省の支配下に入って自由度を失いたくはないが、国防省からの支援金もゼロにしたくない。だから、「これまでの大活躍に免じて、ワグネルに特別の扱いを認めろ!」というのが、プリゴジンの偽らざる本音だった。ワグネルのライバル会社に対してショイグが肩入れしているという噂も、彼の怒りの背景にあったかもしれない。

そんな窮状にあったプリゴジンに対して、英国諜報機関の MI6 は、英国在住のオルガリヒを通じて「クーデターの実施」を焚きつけていた。資金の提供も申し出ただろう。プリゴジンは数ヶ月をかけて、今回の「乱」を準備していたが、その事実は WEST に筒抜けだった。英国はウクライナ軍に対して「ロシアで内戦が起こるので、counter offensive は内戦が起こってからにすべきだ」とアドバイスしていたし、米国国務省は、有力な国会議員に対して「乱」が発生する1週間以上前に「乱」の可能性をレクチャーしていた。無論、ロシアも知っていた。

結局のところ、プリゴジンが「乱」を止めたのは「勝てない」とわかったからだ。今回の「乱」に賛成して、ロストフ占拠に参加したのは、ワグネルの4分の1のみ。さらにモスクワへの行進に付き合ったのは、さらにその数分の1だ。ロストフの周辺は、チェチェン軍に完全に包囲されており、モスクワへの道も、最後の最後にロシア軍の特殊部隊が待ち構えており、このまま進めば、全滅させられることは明らかだった。だから、プリゴジンは「乱」を断念した。それだけのことだ。

ーー 今回の「プリゴジンの乱」につきましては、詳細を除いて、1年以上もの間、ウクライナ紛争に関する類似の戦況分析を展開してきた下記の専門家たちの見解がかなり異なります。
・Larry Johnson(元CIA)
・Douglas MacGregor(元米陸軍大佐)
・Scott Ritter(元国連軍事査察官)
・Brian Berletic(元米海兵隊)
・Alexander Mercurious(国際政治ジャーナリスト)
はてさて、誰が正しいのやら。



読む・観る・理解を深める】
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点①】プーチンはなぜ侵攻に踏み切ったのか?
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点②】米国の思惑とウクライナの実情を知る
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点③】ウクライナに駐在した元NATO将校の証言
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点④】軍事専門家の分析と偏向報道を比べる
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点⑤】戦争は2014年からずっと続いている
【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編①】渡部悦和元陸自東部方面総監 ・小泉悠東大専任講師
【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編②】伊藤俊幸元海自呉地方総監・川添博史防衛研主任研究員
【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編③】佐藤正久自民党外交部会長・青山繁晴参議院議員
【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編④】東郷和彦元欧州局長・三浦瑠璃国際政治学者
【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編⑤】廣瀬陽子慶応大教授・中村逸郎筑波大教授
➡ 軍事専門家を探す旅路:ウクライナ情勢を正しく知るために