Larry Johnson:プリゴジンは、ロシアが WEST に送り込んだ二重スパイ(double agent)だ。そうでなければ、彼はとっくの昔に殺されているはずだ。過激な体制批判を繰り返すことによって、WEST の諜報界の歓心を買った彼は、MI6 あたりから接触されて、巨額の資金提供と引き換えに「乱」を仕組んだのだろう。だから、WEST とプーチンは「乱」のことを予め知っていた。実際、6/23の夜にブリンケン国務長官は米外交関係者に緊急電報を打ち、「ロシアの出来事については、事態を注視している、としか言うな」と釘を刺している。また、プリゴジンは「乱」の直前に、プーチンと会談も行っている。その上で、プリゴジンは、プーチンと事前に示し合わせて、WEST から大金をせしめる計画を立てた。
ひょっとすると、「乱」の序盤戦では、プリゴジンにも色気があって、「熱狂的なロシア国民の支持やロシア軍や高官の支援を得ればWEST に転ぶ」という選択肢も想定の中にあったのかもしれない。だから、「この戦争はすべて嘘から始まった」などという WEST が飛び上がって喜びそうな発言や「我々は全員死ぬ覚悟だ」に代表される過激な挑発も試みた。しかし、ロシア軍も高官も一枚岩であったし、国民の応援も「プーチン打倒の支持」ではなかった。元々、プリゴジンは「ロシアが指名したワグナー部隊の神輿」にすぎない。ワグナーを創設したのはプリゴジンではないし、部隊をマネジメントしているのもプリゴジンではないからだ。ロシアにとって、彼は、いつでも交換可能な傀儡(figurehead)にすぎない。今回の「乱」は「プリゴジンの背後で釣り竿を操っている黒幕が仕掛けた釣り糸の先の毛鉤」だ。
愚かなことに WEST は「プーチン政権は脆弱だ」「ロシア国内は分裂している」「いずれ民衆は打倒プーチンのために立ち上がる」という narrative を大量にかつ毎日垂れ流している間に洗脳され、自らその narrative を無前提に信じ込んでしまった。そんな中で、激しい体制批判を繰り返してきた プリゴジンが、近付いてきた WEST のエージェントに対し「無能なショイグやゲラシモフをクビにできないプーチンには愛想が尽きた。モスクワで蜂起して、プーチン政権を打倒してやりたい」と囁く。ウクライナ軍の反転攻勢が全然うまくいかず、犠牲を増やし続けているだけの戦況に焦りまくり、「このままでは敗戦を隠し切れない。何か打開策はないか?」と右往左往していた WEST が、パクっと食いついてしまったのだろう。
とはいえ、WEST から巨額のカネをせしめるためには、それなりに真剣みを出さなければならない。プリゴジンは、ほぼ空き家に近いロストフの基地を無血で占拠し、プーチンは演説を行って厳しい対決姿勢を醸し出した。もっとも、WEST からカネさえ巻き上げれば「芝居」は終わりだ。プリゴジンは挑発のトーンを下げ、わざわざモスクワへのろのろと「進軍」を続ける。本気でモスクワで蜂起するのなら、モスクワを急襲しなければ戦いにならない。1日近くかけてモスクワに辿り着いたころには、兵隊は疲れ切ってしまう。それでは勝ち目がない。ハッキリ言って、「乱」を起こすなら、ロストフを占拠して快哉を叫んでも意味がない。
結局、プリゴジンはミンスクに難なく亡命し、ワグネル部隊は、プーチンとルカチェンコとの合意の下、「ベラルーシにおいて合法的に存在する道を探る」ということで手打ちが済んだ(結局、キエフの近くに駐屯することになる)。要するに、「プリゴジンの乱」は「プリゴジンとプーチンが WEST からカネを巻き上げて、軍隊の布陣を再整備するための小芝居」だった。そう読むべきだろう。
ーー 今回の「プリゴジンの乱」につきましては、詳細を除いて、1年以上もの間、ウクライナ紛争に関する類似の戦況分析を展開してきた下記の専門家たちの見解がかなり異なります。
・Larry Johnson(元CIA)
・Douglas MacGregor(元米陸軍大佐)
・Scott Ritter(元国連軍事査察官)
・Brian Berletic(元米海兵隊)
・Alexander Mercurious(国際政治ジャーナリスト)
はてさて、誰が正しいのやら。
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