2023.4.4 田中 宇
サウジアラビアとロシア、その他の産油諸国で構成するOPEC+が4月2日に、日産115万バレルの石油減産を5月から実施すると決めた。OPEC+が減産を決めた理由をマスコミは報道しておらず「減産は得策でない」という米政府のコメントを報じているだけだ。減産は単なる愚策で、OPEC+が馬鹿なだけか??。実は全くそうでない。この減産によって、米欧は不況になっているのにインフレがぶり返し、金融救済のために利上げをやめたい米連銀(FRB)は、インフレ対策への再注力が必要になって利上げをやめられず、利上げ傾向が米欧の金融危機を再燃させ、ドルや米覇権の崩壊が早まる。サウジが米国側から非米側に転じてすっかり非米側の組織になったOPEC+は、米国側と非米側の対立激化の中、米国側の覇権やドルを潰すために今回の減産を決めた。
米国側のマスコミは、非米側に負けそうなことを報じたがらないので、OPEC+がなぜ減産したか伝えず、得策でないという米政府のコメントだけ報じている。石油減産は実のところ、米覇権の維持にとって「得策でない」のだ。セントルイス連銀のブラードはそれを示唆したが、多くの人々には明確に伝わらない。米国側の人々は、自分たちの状況を知らされないまま凋落していく。 今回の減産の半分近くにあたる日産50万バレル分は、サウジが担当する。この減産は、米国側から寝返ってきたサウジが非米側にもたらす新兵器だ。これまで覇権体制に無関心を装ってきた非米側が、急に団結して米覇権を引き倒そうと動き出している。ブラジルやインドが、米ドルを使わない貿易体制を次々に宣言している。対米従属一本槍だった日本が「うちは資源がないですから」と言い訳しつつ、G7の対露制裁談合を破る高価格でロシアから石油を輸入し続けることを発表している。英国では、日本よお前もか的に報じられているが、日本人自身は気づいていないっぽい。
多極化や米覇権衰退の予兆は2003年のイラク侵攻後からあったが、最近までほとんど潜在的な動きだけだった。しかしこの数週間で、この20年間に起きるはずだった多極化や米覇権衰退が、急に顕在化している。レーニンが言っていた「何十年も何も起きなかった後に、何十年分もの転換が数週間で起きる」という革命的な転換が、今まさに起きている。東南アジアのASEANは、対米従属諸国の集まりだと思っていた。ところがASEANは最近、域内の貿易決済で、ドルや円やユーロを使うのをやめて代わりに加盟諸国の地元通貨を使うことに関する議論を開始した。人々の消費の決済としてビザやマスターカードの米国系クレジットカードのブランドを使わず、代わりに地元銀行が発行するカードを使う案も出されている。米国と中国の両方と親しいASEANは、地政学的な米中対立が激化する中で、その対立の影響を受けないよう、自前の決済機構を用意することにした。昔から賢明なバランス感覚。さすがだ。
香港は、中国を支配したがる英国の植民地だった。香港は、米英欧(米国側)の企業や投資が中国に入る際のオフショア拠点だった。英米が衰退し、中国は多極型世界の覇権国の一つになる。歴史的な役割が終わり、香港が衰退しても不思議でない。だが最近、中国と親密になった大金持ちなサウジの国営石油会社アラムコが、中国の製油所に資本参加するとともに、香港で株式を上場する話が出ている。香港は、米国側でなく、非米側で中国に慣れていない企業や投資が中国に入る際のオフショア拠点として生きていく。 台湾からは国民党の馬英九・元総裁が上海を訪問した。民進党の蔡英文・現総裁が訪米するのに時期を合わせて対抗した。来年の選挙を見据えている。台湾で米中戦争かと思ったら、そうじゃない、国共合作だという。戦争より合作の方が良いよね。国民党はまだ終わってなかった。いま国際政治経済はとても面白い。
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