【今後の国際経済を予測する際の留意点④】(2022.10.31)
*EUにおける亀裂拡大と米国からの離反

ウクライナ紛争におけるヘルソン地域の攻防を巡る日本メディアの報道を観ていると、クオリティのあまりの低さに愕然とします。プロパガンダ装置と化した米国メディアの記事だけを根拠にして、「ロシア軍はヘルソンから撤退する」「ロシア兵は住民の避難に紛れて逃走する」など裏付けのない報道を大量に垂れ流し、「ロシア嫌い」を喜ばすことを目的とした「エンタメ芸」に堕しています。

日本メディアによる国際報道は、所詮「米国メディアの劣化コピー」に過ぎないので、正確性を期待すること自体が無理かもしれませんが、その報道をベースに、日本の軍事専門家たち(自衛隊の元陸将を含む)が真顔で「逃げるロシア兵は避難する住民を『人間の盾』として使っている」とか「ロシアはヘルソンで大敗する」などと発言している様子を見ると、未だに「正邪」や「好悪」と「勝敗」を峻別することができずに、自分勝手な「正邪」と「好悪」で「勝敗」を推測するという子供じみた「分析ゴッコ」に興じている現状に絶望的な気持ちになります。

もっとも、自分勝手な「正邪」と「好悪」で「勝敗」を推測しているのは、軍事面だけでなく、経済面も変わりません。「ロシアのスーパーから砂糖が無くなり、各地で暴動が起こる」「半導体が輸入できないロシアは6月にはミサイルが製造できなくなる」とか「ロシア経済は早晩崩壊する」という荒唐無稽な予測を吹聴していたエコノミストたちが一向に反省しないのと同じ。現状を俯瞰すれば、ロシア経済が復調している一方で、欧州経済は壊滅しつつあり、ロシアがインフレを克服しつつある中で、WEST(西側諸国)は物価水準の高騰に苦しんでいます。

とはいえ、テレビを観ても、新聞を読んでも、SNSの投稿を見ても、「反ロシア」のプロパガンダに酔い痴れている人たちが圧倒的多数。日本は、数十万に達しているウクライナ兵士の死者にすら気付かずに戦況の趨勢を読み違い、胎動している国際経済の大変革に気付くこともなく、時局に乗り遅れて「負け組」に組み込まれていくのでしょう。岸田政権が、日本メディアによる偏向した劣化報道に立脚して、陳腐な経済政策を続ければ、取り返しのつかないことになります。

現在、国際経済においては、①Alternative Economic Zone(AEZ=代替経済圏)の拡大と②De-Dollarization(脱ドル化)という二つの潮流が明確になり、③WESTを頂点とするUnipolar WorldからMultipolar Worldへの移行が既定路線になっていく中で、④WESTの内部でも亀裂や離反が発生しています。この拙論では、①②③④の観点を中心に、国際経済の現状と趨勢について展望します。

1. バイデン政権の激高とサウジアラビアの反発

原油産出量の削減を決定したOPECは、「減速しつつある世界経済の需要減少に対処するものであり、米国を意識したものではない」と弁明しましたが、バイデン政権は「今回の原油減産はロシアを利する敵対行為だ」として激怒。憤りが収まらない米国は、あからさまにサウジアラビアを含む産油国に対する報復措置を示唆しましたが、それに対して、モハンマド皇太子の従妹(Saud al-Shaalan)が「サウジの王政に異議を申し立てる者は誰であろうと、ジハード(聖戦)で立ち向かう」と応じるなど、今回のやり取りを通じて、米国は中東における重要な盟友を失ってしまっただけでなく、産油国全体を敵に回したように見えます。

実際、その後も、サウジアラビアの高官たちが「米国がOPECに対して制裁措置を講じるのなら、保有している米国債を売り払う用意がある」と語ったことが報じられるなど、両国の関係は悪化の一途を辿っています。サウジアラビアなどの産油国からすれば、万が一、米国と敵対関係に転じた場合にはロシアと同様に、ドル資産が凍結される恐れがあることから、原油代金として得た米ドルを米国債の購入に回すことを躊躇するようになるでしょう。というよりも、今後の原油取引においては、対価として米ドルを受け取らない方向に動くでしょう。

サウジアラビアの米国債保有額は1,221億ドル(8月末・保有残高16位)であり、クウェート(510億ドル・25位)やUAE(478億ドル・28位)等を加えても総残高の3%程度にすぎませんが、保有額第2位の中国が慎重かつ着実に残高を減らしている(昨年11月末10,808億ドル→今年8月末9,718億ドル:▲10.1%)中で、保有額第1位を定席とする従順な得意先の日本が、構造的な貿易赤字に陥ってしまい、購入余力がなくなっている(昨年11月末13,286億ドル→今年8月末11,998億ドル:▲9.7%)だけにボディブローのようにジワジワ効いてくるでしょう。米国金利は、さらに上昇しやすい地合いになっていきます。

とはいえ、サウジアラビアは、米国から兵器を購入し、米軍を国内に駐留させている間柄だけに、米国との関係は複雑。予想外の紆余曲折もあると思われます。ただし、米国の傀儡だった政敵を押しのけて現在の座を勝ち取ったムハンマド皇太子には、国内外の米国勢力と戦い続けてきた経緯があります。長年CIAのエージェントとして活動してきたジャマル・カショギの殺害事件もその文脈で捉えるべきでしょう。実際、米国は、ムハンマド皇太子を「癌」と呼び、彼が失脚するチャンスを窺い続けてきましたから、両者の溝はかなり深いはず。過去の経緯を踏まえた上で、今回の原油減産とBRICSへの正式な参加表明(後述)に鑑みると、サウジアラビアは、ロシア側に付くことを決めたように見えます。

2. サウジアラビアによるBRICSへの参加表明

来年BRICSの議長国となる南アフリカのラマフォーサ首相が、サウジアラビアのムハンマド皇太子と10月18日に会談し、「BRICSへの参加表明を受けた」という衝撃的な報道が流れました。また、同首相は「同様の要望は他の国々からも寄せられている」と付言しています。このニュースに対して中国は、すかさず「BRICSがメンバー拡大に着手することを積極的に支持する」と表明しました。

すでに、「BRICS+」については、アルゼンチンとイランが正式加盟を要望しているほか、トルコやインドネシアも関心が高いと見られています。結局、WEST 以外の国々は、米国の傲慢と過信に愛想を尽かして、BRICSに接近していくのかもしれません。米国による「上から目線」の外交は、自らの首を絞めています。

中でも、トルコは、ノルドストリームが完全に復旧不可となった場合に、ロシア産とアゼルバイジャン産の天然ガスをヨーロッパ全域および西アジア・北アフリカに供給する中継地として、欧州・中東での優位を確保しようと画策しており、ロシアとの距離を急速に縮めつつあります。EU加盟を諦め、NATOを脱退したとしても、BRICSに参加するメリットが大きくなっています。一方で、歴史的に敵対関係にある隣国ギリシャとの緊張感が高まっており、同国がフランスから戦闘機を導入しているだけに、トルコの肚はすでに固まった感があります。

11月16日に開催されるG20のホスト国を務めるインドネシアは、米国から、ロシアの参加を拒否するよう強い圧力を受けていますが、プーチン大統領を招待するスタンスを崩していません。インドと同様に、非同盟主義を貫く同国は、ロシアとも関係を良好に保っており、ロシアが運営するSPFSを活用した自国通貨による国際取引を推進する方向を模索しています。東ティモール紛争に関して米国と軋轢が生じた際に、ロシアや中国から兵器を調達するなど多面的な外交を展開してきた国なので、BRICS加盟が自国に有利だという確信が深まれば、WESTに義理立てすることなく、独自の判断でその方向に進むでしょう。

既に加盟意思を表明しているアルゼンチン・イラン・サウジアラビアに加えて、トルコとインドネシアが正式加盟した場合、購買力平価でみた「BRICS+」のGDPは「G7」を追い抜く潜在力を帯びます。AEZはWEST を凌駕し得る経済圏であることを世界に誇示することになるでしょう。本来であれば、利害関係が対立し、相容れないはずのイランとサウジアラビアとトルコを包含できる枠組と協調関係を成立させた場合、「BRICS+」は経済面での互助組織というだけの存在ではなく、地政学的にも重要な役割を持つ国家集団になっていきます。

3. ペトロダラー制度の終焉と「脱ドル」の定着

世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアがBRICSに加盟することになれば、慣行のみによって成り立っている「ペトロダラー制度」は完全に終焉を迎えます。特に「BRICSバスケット通貨」が導入された場合には、原油取引の代金は米ドルではなく、自国通貨か「BRICSバスケット通貨」が指定されると思われます。

そもそも、バイデン政権があからさまに産油国に対する強硬姿勢を取っていますから、ロシア中央銀行のドル預金が凍結されたという事実を知っている中東諸国は、怖くてドル資産を保有し続けることができません。今後、原油の輸出国は、原油の代金として、米ドルを受けとらなくなるでしょう。ペトロダラー制度は事実上崩壊しました。中東諸国は、間違いなく、De-dollarization を進めます。

ロシアは、サウジアラビアなどの産油国を味方に付け、WEST以外の国々を AEZ に引き入れて、自国通貨での取引を推進しています。9月16日、上海協力機構は、加盟国間の貿易において「自国通貨の使用を増やす措置を取る」ことで合意しました。「ドル本位制」という米国最大の権益を破壊するために、プーチンは「自国通貨中心の交易」という戦略を進めてきましたが、国際金融は着実にその方向に向かっています。ロシア中央銀行のFRB預金の凍結が決定打でした。

WEST以外の国においては「ドル経済圏のリスクをどうやって防ぐか?」ということが現在の最重要課題になっています。ドル資産を保有するのは危険であり、米国の監視下にあるSWIFTを使うことはリスキーだという共通認識の下で、世界各国はDe-dollarizationへと向かっています。ロシアの銀行は、SWIFTを介さないで人民元取引ができるシステムを活用。ロシア産の天然ガスを中国が購入する際には、人民元とルーブル50%ずつで支払っています。トルコに売られるロシア産の天然ガスの代金の25%はルーブルで支払われます。ロシアとインドの銀行は緊密に協力し、両国の交易にはルーブルかルピーが使われます。イランのバンキングシステムは、ロシアの銀行システムと統合する方向で協議が進んでいます。こういう試みが数多の国で同時に進行しているのです。

10月10日、ヨーロッパ中央銀行と中国中央銀行は、ユーロと人民元のスワップ協定の3年延長を決めました(上限:3,500億人民元・450億ユーロ)。2013年に始まったこのスワップ協定の延長は3回目になりますが、今回の意義は大きいと思われます。このスワップ協定により、欧州は、緊急の人民元不足に対処できることになりますが、これは中国が人民元での代金支払を求めた場合のバッファーになります。中国は、人民元による交易の環境を着々と整えているのです。

4. 欧州市民の困窮とEU内の亀裂拡大

欧州にとって、ロシアのエネルギーに対する制裁は深刻な間違いであり、自殺行為でした。欧州経済はエネルギー危機に瀕し、激しいインフレに悩んでいます。そして、経済の悪化は社会の不安を産み、政治を動揺させます。生活が困窮した市民たちは、デモを繰り返し、「ロシアへの経済制裁を止めて、ウクライナへの武器供与を止めよ。自国民のためにカネを使え」と叫んで、各国政府に迫っています。例えば、オランダで独り暮らしなのに、1ヶ月のガス代だけで、日本円で10万円を優に超える場合があるなど、人々の暮らしは危機に直面しています。

欧州各国の消費者物価上昇率はすでに+10%前後に達し、ヨーロッパ中央銀行が、インフレを抑制するために、マイナス金利政策を捨てて、利上げに転じていることもあり、年末から景気が冷え込むことが予想されています。しかも、燃料や食料価格は簡単には下がらないとも見られており、物価の高騰と景気の悪化が同時に起こるスタグフレーションに突入する可能性が高まっています。

ドイツでは、4社のうち1社がリストラに着手し、エネルギー不足で病院を閉鎖せざるを得ないかもしれないと報じられています。もはや対外的な体面を繕う余裕もありません。ドイツは、自国に流入した天然ガスを他国に譲らなくなったとも言われています。「共存共栄」の理念は消滅し、各国が自分勝手なことを始めました。EU は一枚岩ではなくなり、各国のエゴがぶつかり始めます。

例えば、フランスは、ノルウェー・米国から輸入しているガスの値段に共通の上限価格を設けることを提案したときのこと。財政に余力がないイタリア、スペイン、ベルギー、リトアニアなどが即座に賛同したものの、「皆でガスを譲り合おう」と連帯を求めていたドイツが「貴重なガスが他国に流れてしまう」として猛反対。財政に余裕があるデンマークやオランダなどがドイツ側に付き、結局破談になりました。ドイツに対する不満が膨らんだのは、言うまでもありません。

一方、ドイツは、EUにおける「全会一致」の原則を見直して、「多数決」に移行すべきと提案していますが、ハンガリー等が強硬に反対。これまで以上に、EU内の対立が鮮明になってきました。新政権となったイタリアは、当面は様子見のスタンスに見えますが、EU に亀裂が走り、欧米の間で隙間風が吹くようになれば、プーチンとも親交があり、「WEST はロシアを孤立させようとしたが、WESTは世界から孤立してしまった」という名言を吐いたベルルスコーニ元首相のような老練な政治家が動き出すでしょう。彼がプーチンと握って、欧州における新秩序を構築する方向でリーダーシップを発揮する可能性もゼロとは言えません。

5. EUにおける「対ロシア制裁」の混迷

EUの外務・安全保障政策上級代表であるジョセフ・ボレルは、「20世紀半ば以降における欧州の繫栄はロシアの貢献によるものだった」と認めて、ロシアに対する経済制裁が誤りであったことを滲ませました。また、ノルウェー首相は「ロシアを孤立させても、欧州に良い影響をもたらさない。孤立させるのではなく、諸問題を解決するために、直接対話のルートを維持すべきだ」と明言しています。

そういう状況下、EU はロシア産天然ガスに関する「Global Price Cap」で合意することがなかなかできません。ハンガリーがロシア制裁に対し、断固として反対していることもありますが、他のEU諸国も「Global Price Cap」という「究極の固定価格政策」が上手くいくわけがなく、実行すれば自国に跳ね返ってくることに気付いてきたのでしょう。EUの団結が緩んだことを感じとったハンガリーとセルビアは、EU とは独立した「対ロシア政策」を採用する方向に踏み出しました。ギリシャも、EU を当てにせず、独自に対ロシア外交を始めています。

じつは、本年6月の統計を見ると、EU諸国のほぼ半数(13ヶ国)が、ロシアからの輸入を前月比で増やしています。スロベニアが倍増させたほか、スペイン+69%、スウェーデン+48%、ベルギー+25%、ポーランド+19%などが大幅増を記録しているのです。米国メディアによる報道の洪水の中にいると見えなくなりがちですが、欧州各国にとって、ロシアは重要な取引先であり、「排除する」のは極めて困難。むしろ「経済制裁」が愚策だったというべきでしょう。

現実問題として、EU から天然ガスの輸出増に関する強い要請を受けたカタールは「天然ガスは、ロシアから買った方がいい」と助言したように、輸出国には余力がありません。暖房が必須の厳冬が近付くにつれ、欧州諸国にとっては、エネルギーの調達が死活問題になります。万が一、ノルドストリームが復旧する可能性があるとすれば、プーチンは、米国の半値以下で天然ガスを供給することを提案するでしょう。そして、一枚岩でなくなった独仏伊が競いながらその提案に乗った場合、米国を頂点としたWESTのUnipolar Worldは大きく瓦解します。

これまでEUの高官たちは、米国政府の傀儡として、欧州諸国を「反ロシア」に染め上げることに腐心してきましたが、サルコジ元仏大統領がEU の専横に対して異議を公言するなど、潮目は変わりつつあります。EU の団結には亀裂が走り、対ロシアの制裁については共同歩調が取れなくなってきています。各国では、インフレとエネルギー不足に怒った市民たちがデモを起こし、政権基盤が揺らいでいます。欧州の地殻変動が奥底で始まっている可能性があります。

6. 欧州各国における米国からの離反

10月16日、ドイツの高官は、議員からの質問に答えて、「生命線であるノルドストリームを爆破したのは誰かを知っているが、『安全保障上の理由』から公表できない」と語りました。要するに、爆破犯人は、敵対しているロシアではなく、米国あるいは米国の息がかかった勢力であったことを事実上認めたわけです。

ノルドストリーム爆破事件は、米国が「ドイツの友人」ではなく、ドイツを信用しておらず、ドイツの国民の生活や経済がどうなろうと構わないと思っていることを全世界に示しました。実際、ブリンケン米国務長官は、この事件に触れながら、「Tremendous Opportunity(とんでもない好機)」だと指摘しましたから、無神経にも程があります。そういう無慈悲で独善的な米国を「絶対の支配者」として崇め続けることを欧州各国は是とするのか否かがこれから問われます。

米国から欧州に送られる天然ガスの値段がロシアの4倍だと知ったドイツの高官は「友好国がやることではない(This is not a friend country can do things)」と語り、マクロンフランス大統領は「これは本当の友情ではない(This is not real friendship)」と激高しました。米国に追従しても良いことばかりではないと気付いた欧州各国は、米国が推進している気候変動条約の締結に後向きになりつつあります。欧州各国の市民は、NATO が「Warmonger(戦争屋)」であることに気付き、脱退を求めるようになりました。ドイツが主導した欧州におけるエアディフェンスシステムの構築には米国を参加させていません。その一方、フランスは参加を見送り、NATO から脱退するのではないかという噂すら流れます。

欧州諸国は、米国に盲従してひどい目にあった「対ロシア経済制裁」に懲りて、「中国に対しては経済制裁しない」という方向で歩調を整えつつあり、米国が求めている「中国経済のデカップリング」には猛反対しています。そんな中、ドイツはハンブルク港の権益を中国企業に売却しました。欧州と米国の間には隙間風が吹き始めたと見てよいでしょう。実際、欧州諸国は、厳しい冬を乗り越えるために、中国製の暖房器具や防寒服を大量に買い付けており、「いずれロシア産の天然ガスや原油を中国経由で買うのではないか」とすら報じられています。

辣腕の米外交官として知られたヘンリー・キッシンジャーは、「米国の友人になることは、敵になることよりも危険だ(To be a friend of the United States, that is more dangerous than being an enemy of the United States, because those who are subject to the United States will be better to deal with)」と語っていましたが、欧州の首脳たちは、この箴言を苦々しく噛み締めていることでしょう。

7. 孤立しないロシアと孤立していく米国

WEST以外の国々がロシア側に秋波を送り、頼みのEUが瓦解している中で、Unipolarを堅持すべく米国は藻掻きますが、バイデン政権は、軍事力と経済力にモノを言わせる威圧的な外交しかできていません。バイデン政権の独善的なスタンスに嫌気がさした国々が離れていきます。それに怒った米国は「制裁するぞ」と脅しつけるのですが、それを見た国々がさらに黙って去っていきます。バイデン政権の植民地主義的な気質は、ロシアが主導するMultipolar Worldへの移行を促進しているのです。著名な経済学者であるJeffery Sachsは、「米国は正義の味方のつもりかもしれないが、世界は悪の化身だと思っている。しかし米国は気付けない。ロシアに対する経済制裁は世界を二分し、WEST に犠牲を強いるだけだ」と警告し続けていますが、バイデン大統領の耳には届かないでしょう。

バイデン政権は、中国の半導体業界で働いている米国人の米国国籍剥奪を検討したり、中国企業に対する半導体輸出を規制するという荒業に出ました。中国の半導体メーカーは麻痺したとも報じられています。米国が中国に「経済戦争」を仕掛けたことは間違いありません。そんな中、キーティング元豪首相は「オーストラリアが『中国と戦う駒』として使われることがないように、AUKUS(米英豪の軍事同盟)から脱退した方が良い」と公言。バイデン政権の現在の外交スタンスでは、同盟国とすら良好な関係を維持できなくなる可能性があります。

米国に良いように操られてきた欧州各国は、米国が「友人」ではないことに気付き、米国との距離を少しずつ取り始めています。米国は「ロシアは世界から孤立している」と公言しますが、実際は「米国が世界から孤立する可能性」がどんどん高まっています。こうした情勢変化を踏まえて、トニー・ブレア元英首相は「西側諸国による政治的・経済的な覇権は終わりを迎えつつある(We are coming to the end of Western political and economic dominance.)」と指摘しました。

その一方、プーチン大統領は、10月27日の講演で「各々の文化や伝統を認め合い、各国が同等に扱われるMultipolar Worldを目指すべきだ」と改めて公言し、「ロシアは、他国に干渉するつもりも、米国の代わりに覇権国になるつもりもない(Russia does not interfere in such matters and has no intention of doing so. Unlike the West, we mind our own business.・・・Russia will not become a new hegemon ourselves. Russia is not suggesting replacing a unipolar world with a bipolar, tripolar or other dominating order)」と宣言。WEST以外の国々が「俺の言うとおりにやれ!(issuing commands such as “do as I do” or “be like us.”)」と命令する米国主導のUnipolar Worldと比べて、どちらを選ぶかは明白です。



ペトロダラー制度は事実上終わった。あとは、表面化する速度の問題だけだ。

【読む・観る・理解を深める】
【今後のロシア経済を予測する際の留意点①】 プーチンが仕掛ける「SWIFT 2.0」
【今後のロシア経済を予測する際の留意点②】プーチンが仕掛ける「ルーブル金本位制」
【今後のロシア経済を予測する際の留意点③】「unipolar」vs「multipolar」の戦いの行方
【今後のロシア経済を予測する際の留意点④】「AEZ+SWIFT 2.0」が本格的に台頭する
【今後のロシア経済を予測する際の留意点⑤】「新冷戦」の勃発と「ドル本位制」の終焉
【今後の国際経済を予測する際の留意点①】「WESTの稚拙」vs「BRICSの智略」の勝敗
【今後の国際経済を予測する際の留意点②】「ペロシ米下院議長による台湾訪問」の帰結
【今後の国際経済を予測する際の留意点③】「OPEC+」と「上海協力機構」における決断
今後の国際経済を予測する際の留意点⑤】内政不干渉のBRICSと主権不尊重のWEST
➡ The Bretton Woods 3:国際金融システムが大変革する!