【今後の国際経済を予測する際の留意点③】(2022.10.11)
*「OPEC+」と「上海協力機構」における決断

10月4日、ドンバスなど4州のロシアへの併合が正式に承認され、ウクライナ紛争は新たな局面を迎えています。兵力を着実に大きく削られ、兵器を破壊され続けているウクライナ軍は、WEST(西側諸国)からの持続的な支援がなければ、戦闘態勢を維持できない状況に陥っているため、「戦場における戦果をアピールし、WESTの支持と支援を維持しなければならない」という立場に追い込まれており、無理筋の攻撃を繰り返しては、兵力と兵器を損耗し続けています。

そういう状況下、ドンバスなどの国境を護るという観点からは、軍事的な重要性が乏しいハルコフ地域からロシア勢が離脱した機会を捉えて、米国から情報を得たウクライナ軍が戦闘らしい戦闘もなく同地域を奪取することに成功。WESTはこの進軍を大々的に報道し、ウクライナは「政治的な勝利」を手にしましたが、その一方、ロシア勢は、ロシア本軍が未参戦なのに、軍事的な要衝であるバフムートを落としつつあるなど「軍事的な勝利」をより確実なものにしています。

この間、米国メディアの正確性は著しく堕ちました。今では、「ノルドストリームを爆破したのはロシアだ。プーチンは自分の資産であるパイプラインすら自ら破壊するほど狂っている。ここまで狂っているのなら、核兵器を使ってもおかしくない。だから、我々は核兵器による反撃を準備すべきだ」という無茶な三段論法で煽っている始末。戦況についても、「ロシアは兵力が削られ、士気も低く、弾薬もない。プーチンが勝つことは不可能に近い」と断言する輩を出演させながら、何ら専門的な分析を示すことなく、プロパガンダを美しく演出しています。

完全なプロパガンダ装置と化した米国メディアを主要な情報源としている日本メディアは、事実と予想と願望の違いすら認識できずに不正確な情報を垂れ流しており、報道機関としての良識も能力も持ち合わせていません。軍事的な事実すら的確に報じることのできない日本メディアでは、予想以上に早く立ち直りを見せているロシア経済の実態はもとより、ウクライナ紛争の背後で同時進行している国際経済の変貌に光を当てることを期待することなど不可能です。

国際経済の深層では、①Alternative Economic Zone(AEZ=代替経済圏)の拡大と②De-Dollarization(脱ドル化)という二つの潮流の中で、③WESTを頂点とするUnipolar WorldからMultipolar Worldへと移行する道筋が明らかに示されつつあります。この拙論では、①②③が現実化に向かっていることを解説しつつ、ロシア経済とウクライナ経済の現状と近未来について指摘します。

1.「OPEC+」が大幅減産で示したスタンス
10月5日、OPECにロシアなどの産油国が加わる「OPEC+」は、11月以降の原油の生産量を1日あたり200万バレル減らすことを決めました。2020年以来の大規模な減産で、世界の原油需要のおよそ2%にあたります。WTIの先物価格は、ロシアによるウクライナ侵攻で3月には1バレル=130ドル台をつけていたものの、景気減速による需要減少への懸念から下落し、80ドルを割り込む情勢になっていましたが、88ドル台にまで反転上昇しました。

今回、サウジアラビアは、国家戦略において、極めて重要な決断を下しました。この「大幅減産」は、7月半ばにわざわざ同国を訪問して、原油輸出量の拡大を懇願したジョー・バイデン米大統領の顔に泥を塗る行為であり、サウジアラビアは、米国に対し反旗を翻し、ロシア側につくことを宣言したことになります。

そもそも、ロシア制裁の手段としてG7が打ち出した「Global Oil Price Cap」という買い手カルテルの形成は、売り手のカルテルである「OPEC+」との全面戦争を意味しています。加えて、長年続くサウジアラビア国内外におけるムハンマド皇太子一派に対するCIA等の工作に対する反発も背景にあったでしょうが、サウジアラビアは、国運を賭けて、「ロシアvs WEST」という軍事・経済面での戦況を分析した結果、「ロシアに分がある」という結果に至ったわけです。

サウジアラビアを含む原油生産国は、より一層ロシア寄りとなり、WEST と対峙するスタンスを強めることになります。日本では、「ウクライナ軍はロシア軍を撃破しており、プーチンは失脚する」というシナリオが盛んに喧伝されていますが、もしそうであれば、サウジアラビアが「大幅減産」という形でバイデン政権に対して「NO」を突きつけることはなかったでしょう。要するに、世界の首脳たちは、ウクライナの進軍を「表層的かつ一時的」と分析しているわけです。

米国は「世界経済がプーチン大統領のウクライナ侵攻による影響を受ける中、OPEC+が近視眼的な決定をしたことに失望している」と反発し、「OPEC+はロシアに加担している」と非難。産油国を制裁する法案の立法にも言及しました。じつは、そういう威圧的な手法こそが、多くの国々をWESTではなく、ロシア側に追いやっているのですが、米国はその愚に全く気付いていないようです。

ロシアは、サウジアラビアなどの産油国を味方に付け、WEST以外の国々を AEZ に引き入れて、自国通貨での取引を推進しています。産油国がロシアを選んだため、ペトロダラー制度の崩壊は決定的になりました。米国の外交手段が昔ながらの「上から目線の脅迫」しかないのでは、この流れは止まらないでしょう。

2.上海協力機構における「自国通貨取引の拡大」
9月16日、上海協力機構は、加盟国間の貿易において「自国通貨の使用を増やす措置を取る」ことで合意しました。数多くの国々が参加する国際組織が、プーチン大統領が主張してきた基本戦略を公式に承認したことは大きな意味を持ちます。「ドル本位制」という米国最大の権益を破壊するために、プーチンは「自国通貨中心の交易」という新機軸を打ち出してきました。国際金融は、着実にその方向に向かっており、ペトロダラー制度はすでに崩壊の軌道に乗りました。

さらにロシアは、上海協力機構に加盟している国々に対して、SWIFT ではなく、ロシアが開発・運用している SPFS を使用するように働きかけ始めました。もっとも、6月末の時点でSPFSを使用しているのは12カ国70行にすぎず、200ヵ国以上で11,000行の金融機関が参加しているSWIFTには遥かに及びません。ロシアは、6月にミャンマー、8月にはイランと、SPFSの使用に関する基本合意に至るなど着実に裾野を広げていますが、この裾野の広がりが加速するか否かが、今後のDe-Dollarizationの行方を決定づけるであろうと思われます。

とはいえ、SPFSを利用するか否かにかかわらず、国際決済において自国通貨の割合を増やしていく動きは着実に広がっています。それは、ドルを保有するリスクが巨大になってしまったからです。FRBによるロシア中央銀行のドル預金凍結は、ドル資産を保有する諸国に対して、「核兵器」並みの衝撃を与えました。

さらに、アフガニスタンの事例がダメ押しとなりました。同国は、米軍の関与もあって長年戦禍に巻き込まれたため、国土が荒廃しています。復興に巨額の資金が必要なので、同国政府は、米国が不法に凍結した同国中央銀行のドル預金を返還するよう要求しています。ところが、バイデン政権は返還しようとしません。一方、自らも FRB預金を凍結されたロシアは、「米国は、凍結したドル資産をアフガニスタンに即時返還すべき」と主張。一部始終を観ている国々は「米国に嫌われたら、自国も同じ目に遭わされるかもしれない」と心配しています。ロシアの主張に共感する国々は少なくありませんが、「米国の敵」と思われてしまったら、ドル預金を凍結されてしまうかも知れないので、沈黙を守っています。

このため、WEST以外の国においては「ドル経済圏からどうやって逃げるか?」ということが現在の最重要課題になっています。実際、9月27日に発覚したノルドストリームの破壊事件は、米国は「同盟国のドイツに対してすらテロ工作を仕掛ける」という事実を世界に知らしめました。要するに、ドル資産を保有するのは危険であり、米国の監視下にあるSWIFTを使うことはリスキーなのです。

そういう状況下、ロシアは「SWIFT におけるドル決済は危ないから、自国通貨での決済を SPFS でやれば、米国に知られなくて安心だ」と諸国に呼び掛けているわけです。外貨準備を失いたくない諸国首脳は、米国を刺激しないよう知恵を絞りながら水面下で動いています。例えば、米国債の最大保有国だった中国は保有額を減額。7月末の米国債保有額は9,700億ドル(約139兆円)で2022年上期だけで1割近い1,000億ドル減らしました。ロシアやサウジアラビアとの取引は中国元で行い、自国で運営しているCHIPSとSPFSの連携も進行中です。

3.De-dollarizationの深くて広い進展
9月30日、プーチン大統領は、4州併合に係る署名をする際に行った歴史的な演説の中で「人々は印刷されたドルやユーロでは養えない(people cannot be fed with printed dollars and euros)。紙切れで空腹が満たされることはないし(You can't feed them with those pieces of paper)、SNSが与えてくれるヴァーチャルな世界が家屋を暖めてくれることもない。紙切れではなく、実物の食糧やエネルギーが必要なのだ」と断言し、紙切れに過ぎないドルの終焉を示唆しました。

この演説の内容と符合するかのように、ASEAN の会議に招かれたロシアの安全保障担当者は、「米国のドル通貨なんて持つのは止めておいたほうがいい。盗まれるかもしれないし、破綻するかもしれない」と警告。それを受けて、インドネシア、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピンは、国内決済システムを連携させて、11月から自国通貨による国際取引を増大する試みに着手します。

2011年10月に、WESTが「リビアの英雄であったカダフィ大佐を殺した理由」については諸説ありますが、主流の「原油利権説」のほかに、「カダフィがドル本位制から離脱しようとしたから」という有力な説があります。これは「リビア・ディナール金貨」をアフリカで流通させるという壮大な戦略であり、もし実現していれば、ペトロダラー体制に大きな影響を及ぼしたとも言われています。

カダフィを殺したWESTの非情に直面したアフリカや中東・中南米の国々にとって、それ以降、「脱ドル化」について公言することはタブーになりました。しかし、十余年経過したいま、WEST以外の諸国は恐る恐る動き始めています。米国は未だに強く、怖い存在ですが、「米国の気紛れで、いつなんどき虎の子のドル建て外貨準備が盗まれてしまうかもしれない」というリスクが現実のものとなってしまったために、動かざるを得なくなったのです。ロシアのFRB預金を凍結し、復興資金が必要なアフガニスタンのFRB預金を返そうとしない米国の対応を見て、WEST以外の諸国は「慄然とした」と言ってよいでしょう。

ほとんどの開発途上国にとって、輸出で稼ぎ出した貴重な外貨準備を保全する手段は「ドル預金」です。ところが、そのドル預金は突然凍結されるかもしれない・・・。米国政府に盗まれて雲散霧消するかもしれません。しかも、そのトリガーは米国の胸先三寸なのです。おちおち夜も寝ていられません。米国が気に入らないと思えば、「いつでもドスン」なのですから。これからWEST以外の国は、自国通貨での取引にこだわりますから、ドル取引の比率は自然に下がっていきます。De-Dollarization は、静かに深く、広く着実に、進行していくでしょう。

8月29日、モスクワ取引所は、取引の担保としてドルを使用することを禁止しました。そして、10月3日、同証券取引所で成立した「人民元/ルーブル」の取引は6万4900件、取引額は703億ルーブルとなり、同日の「ドル/ルーブル」の取引(2万9500件・682億ルーブル)を初めて抜きました。中国元が取引量最大の外貨になった瞬間です。まだまだ小さな事象にすぎませんが、世界中でものすごい勢いで進展している De-dollarization の兆候のひとつです。

そういう状況下、ロシアが運営しているMIRペイメントシステムを使用する国も広がっています。旧ソ連の国々だけでなく、中国、インド、イラン、ベネズエラ、キューバ、韓国、ベトナム、アンゴラ、トルコなど。ロシアの観光客が大勢訪れるトルコでは、ホテルや店舗がMIRを決済手段として受け入れてきましたが、WESTが「制裁するぞ」と脅しつけたため、使用を諦めました。Monopolar World を堅持しようとする WEST は、腕力で威嚇し、気に食わないインフラを排除しようとします。これから、SPFSでも同様のことが頻発するでしょう。

4.瓦解へと進むEUと遠心力を働かせる米国
8月17日、ドイツ連邦議会における「エネルギー・気候変動委員会」の委員長が、「ロシアのエネルギーに対する制裁は深刻な間違いだ。厳しい不況を招く。欧州最大の経済大国におけるエネルギー供給を危機に晒すことは自殺行為だ(hara-kiri)」と述べたように、欧州経済はエネルギー危機に瀕し、インフレに悩んでいます。そして、経済の悪化は社会の不安を産み、政治を動揺させます。

欧州では、エストニア、ブルガリア、英国、イタリアが政権交代に追い込まれましたが、首脳たちの失脚はさらに続くと見られています。ロシアに対する経済制裁は、明らかな失策で、欧州各国の国民生活を大きく疲弊させました。ドイツは、自らのエネルギー危機に直面して、自国外への天然ガスの融通に消極的になり、「共存共栄」の理念から離脱しつつありますし、オランダとブルガリアも、EU の「対ロシア強硬戦線」から脱落する気配を見せています。

そういう中、EUでは移民問題が大問題になりつつあります。欧州各国は、ウクライナ避難民に対する補助金を打ち切り、その対処が政治課題になってきました。また、ウクライナ避難民に紛れて EU への入国を図る経済移民たちが急増。このため、イタリアやギリシャ、ハンガリー、オーストリアは移民受け入れを拒否するスタンスを強く打ち出しました。そのほか、原発の扱いについても意見が大きく分かれるなど、EUは一丸となって動くことが難しくなってきています。

BRICSのみならずOPECや上海協力機構の国々がロシア側につき、頼みのEUが瓦解している中で、Unipolar を堅持すべく米国は動いていますが、バイデン政権の外交は巧みとは言えません。圧倒的な軍事力と経済力にモノを言わせて、強権的に展開する外交しかできないようです。相手国の複雑な事情を理解した上での高度な提案ではなく、米国の国益を押し付けるだけなので説得性が乏しい。だから、7月半ばのサウジアラビアへの訪問で、バイデンは何も得られず、プーチンに完敗しました。中南米やアフリカでも、状況は似たようなものです。

ブリンケン米国務長官に象徴される「上から目線外交」が、国際社会において、ますます「米国の遠心力」を強めていきます。植民地主義的思考回路から逃れられない米国は、アフリカや中東や中南米に対して、「ロシアや中国に接近するな」と脅しつけるだけ。当該国の諸事情に配慮することなく、一方的に命令するだけの米国に対して、ロシアや中国が「Win-Win」の提案をしてくるのなら、結果は自ずと明らか。しかし、「上から目線」が当たり前のバイデン政権は、自分たちが日々仕出かしている外交手腕の稚拙さに気付くことができません。

5.ロシア経済における予想以上の回復
この間、ロシア国内の経済実態を見ますと、インフレーションは落ち着いており、企業活動は予想以上の立ち直りを見せています。企業向け貸出は急増し、住宅ローンを始めとする消費者ローンも回復中。景気の実相は業種や地域で異なりますし、生産プロセスにおける困難が完全に解消しているわけではありませんが、経営者心理は前向きになっており、新しい経済環境に対応しつつあります。

エネルギー分野を除く輸出業界は、欧州が得意客であったため、まだまだ苦しんでいますが、全体として見た鉱工業生産は、自動車や金属など一部の業界を除き、2021年の水準に戻りました。農業や建設業が絶好調となっている中で、インフレーションはコントロールされており、欧州各国とほぼ変わらない水準になっています。税収も極めて好調です。これらの諸点については、10月6日に開催された経済関連の会議において、プーチン大統領も指摘しています。

もっとも、消費需要は未だに弱く、小売業の売り上げは▲8.8%(7月前年比)と大幅な不振から脱していません。ロシア中央銀行は、9月16日にさらに基準金利を引き下げ、8.0%から7.5%に変更しましたが、主な目的は、この需要不足を打開することにあります。ロシアの基準金利は、ルーブル相場を落ち着かせるために、今年2月に9.5%から20%に急上昇した(2/28)後、インフレの状況を凝視しつつ、17%(4/11)、14%(5/4)、11%(5/26)、9.5%(6/10)、8%(7/22)と着実に水準を下げましたが、利下げで需要が喚起されるかが注目されます。

この状況をマクロ経済的に捉えれば、ロシア経済においては、需要サイドが問題になっているわけで、供給サイドの問題は相対的に少ないということを意味しています。経済制裁が発動された当初、西側のエコノミストたちは、「半導体や部品などの調達困難が表面化するため、今年6月前後に、ロシアは完全な供給不足に陥る」と予想していたわけですが、その予想は的外れであったことがわかります。ロシア経済の優先課題は、供給不足ではなく、需要不足なのですから。

また、未だにWESTでは、「欧米企業の撤退がロシア経済にダメージを与えている」というニュースが垂れ流されていますが、じつは、実際に大きな損害を被ったのは、ロシアから撤退した欧米企業のほうです。ロシアでは、欧米企業が離脱した後の美味しい市場を狙って、ロシアの地場企業と中国企業とインド企業が続々と参入しています。事業のシーズがニーズになり、すでに顧客がいるマーケットなので、ビジネスの妙味を熟知した同業の経営者なら垂涎のチャンスだと言えるでしょう。そういう中、コカコーラは、「Dobry Cola」というブランドで、ロシアにおける製造・販売を実質的に再開することを決めました。

6.ウクライナ経済の破綻と長期化の影響
回復基調にあるロシア経済に比べて、ウクライナは悲惨です。2022年のGDPは▲35%~▲45%という惨状で、1,300億ドル(2020年末)を遥かに超える対外債務が重しとなっており、                  ウクライナ政府は7月20日にユーロ債の元利払いを24カ月延期しました。ゼレンスキー政権は、対外債務の重みに耐えるためにもWESTの支援が不可欠で、そのためにも戦場での勝利を欲しているのです。

ウクライナは税収がガタ落ちし、WESTからの資金援助も十分と言えない中で、紙幣を印刷することでしか政府支出を賄えなくなっています。ロシアのインフレーションがピークアウトしている一方、ウクライナではハイパーインフレの危険性が高まっているわけです。ウクライナでは、兵士の大量死傷で戦争における敗勢が深刻化を増していますが、経済破綻のリスクもその敗勢に劣りません。

ウクライナの通貨であるフリヴニァは、昨年末の27.29/ドルから36.93/ドル(10/10)へと▲26%減価しました。戦費を賄うために、ウクライナ中央銀行は紙幣を刷り続けているので、前年比で見たインフレーションは+16.4%(4月)、+21.5%(6月)、+23.8%(8月)と加速しており、今後さらに昂進すると見られています。このため、「フリヴニァの価値は今後さらに下落する」という読みが一般的であり、インフレーションによる減価に対抗するため、フリヴニャをCryptocurrencyに転換する人々が増えています。ウクライナ政府は、購入制限を設けて牽制していますが、毎年2割以上価値を失う通貨を手元に置いたままでいる国民は少なく、ベネズエラやイランと同じ光景が展開しています。

その一方、ロシアのルーブルは、昨年末の74.79/ドルから62.32/ドル(8/9)へと価値が+20%も上昇しました。前年比で見たインフレーションは+17.8%(4月)、+15.9%(6月)、+14.3%(8月)と未だ高い水準にはあるものの、着実にピークアウトしており、消費者物価の水準は下落傾向にあります。米国が金利を引き上げて、ほとんどの通貨に対して20年来のドル高を演出しているにもかかわらず、9月16日に基準金利を引き下げたロシアのルーブルは、安定感を見せつけています。たった半年余の間に、20%から8%に基準金利が急落しているのに、急速に金利を引き上げているドルに負けていません。

こうした経済実態の下、ウクライナよりもロシアの賃金水準のほうが高く、フリヴニャではなく、ルーブルで給料がもらえるため、今回の紛争前も、そして現在も、ロシアとの国境近郊に住んでいるウクライナの人たちは、ロシアの街へ頻繁に出稼ぎに行っています。実際、ゼレンスキー大統領は、ロシアとウクライナ間の往来に対して、ビザの取得を義務付けようとしたことがありましたが、「出稼ぎに支障が出る」という猛反対を受けて、断念した経緯があります。

ロシアの実効支配下にある地域では、すでにルーブルが取引通貨になっています。また、ロシアの経済圏に組み込まれていることから、物価水準や賃金水準もロシアに収斂する方向で経済が回り始めています。そうなると、ウクライナ人にとっては、キエフの支配下で安い賃金のフリヴニァをもらうよりも、ロシアの実効支配地域で高い賃金のルーブルをもらうほうがよいということになっていきます。実際、ロシア軍が制圧して復興が始まった街には、疎開していたウクライナ人たちが戻ってきており、その様子は SNS などで数多く発信されています。

つまり、経済面だけをピックアップすれば、ウクライナ紛争の長期化は、ロシアよりも、ウクライナ側に対して、より不利に働くことがわかります。今回の紛争は、こういう実態経済の観点からも詳細に分析していく必要があります。



Shanghai Corporation Organaization(SCO)は、BRICS の正式メンバーになるための登竜門として、有効に機能している。イランが好例だ。

【読む・観る・理解を深める】
【今後のロシア経済を予測する際の留意点①】 プーチンが仕掛ける「SWIFT 2.0」
【今後のロシア経済を予測する際の留意点②】プーチンが仕掛ける「ルーブル金本位制」
【今後のロシア経済を予測する際の留意点③】「unipolar」vs「multipolar」の戦いの行方
【今後のロシア経済を予測する際の留意点④】「AEZ+SWIFT 2.0」が本格的に台頭する
【今後のロシア経済を予測する際の留意点⑤】「新冷戦」の勃発と「ドル本位制」の終焉
【今後の国際経済を予測する際の留意点①】「WESTの稚拙」vs「BRICSの智略」の勝敗
【今後の国際経済を予測する際の留意点②】「ペロシ米下院議長による台湾訪問」の帰結
【今後の国際経済を予測する際の留意点③】「OPEC+」と「上海協力機構」における決断
今後の国際経済を予測する際の留意点⑤】内政不干渉のBRICSと主権不尊重のWEST
➡ The Bretton Woods 3:国際金融システムが大変革する!