インド最大手のセメントメーカーが、ロシア産石炭の輸入において、中国人民元を支払いました。・・・これはスゴイ! この取引には、正直言って、唸ってしまいました。普通なら、インド企業なんだからルピーで支払えばいいのに、中国への輸出や中国の資産売却で人民元を入手したので、ロシアへの支払原資にしたのでしょう。じつは、これ、画期的な取引です。
このところの一連のロシアの経済政策を調査・分析していて、プーチンの経済ブレーンたちの聡明さには舌を巻いていたのですが、今回の一件で「ここまで読み切って布石を打っていたのか!」と改めて驚愕しました。
金塊にソフトペッグする「ルーブル金本位制」でルーブルの価値を高め、「SWIFT 2.0+Alternative Economic Zone(AEZ)」ででドル本位制を揺るがすところまでは読めていました。しかし、ぼんやりと「プーチンは、将来的には、ドルの代わりにルーブルを国際基軸通貨にしたいのかなぁ?」などと思っていた面もあります。しかし、それは浅慮だったということを思い知らされた一大事件でした。
確かに、プーチンは「ルーブル金本位制」を中核に、非友好国に対しては、ロシア産エネルギーをルーブルもしくは金塊でしか売らないという施策を断行していますし、Gold-Backed Stablecoin という形式で、実際にルーブルを国際取引における通貨として普及させる準備もしています。だから、なんとなく「長期的には、ロシアも、米国と同じように、ドル覇権の代わりにルーブル覇権を狙っているのではないか?」などとぼんやりと考えていました。大局的に観れば、その推察は今でも間違っていないとは思います。しかし、プーチンのブレーンたちは、ルーブル覇権に至るまでの道の手前にも巧みな仕掛けを施していたのです。
その仕掛けは、今回の BRICS サミットでプーチンが開発中であることを公開した「BRICS バスケット通貨」。冒頭の取引が報じられるまで、その大局的な仕掛けに気付かなかった己の未熟さを恥じいるばかりです。「ルーブル金本位制」が成功しているから、ロシアは「ルーブル中心の国際金融秩序」を模索しているのだろう、という浅い読みしかしていなかったので、「BRICSバスケット通貨」というのは、WEST を揺さぶるためのアドバルーンだろうとしか観ていませんでした。
しかし、それは大きな間違いでした。客観的に観れば、ロシアは友好国と自国通貨での取引を奨励しています。したがって、ロシアには、中国人民元やインドルピーやブラジルレアルが外貨として自然と貯まってきます。ところが、これらの通貨は、ルーブルと違ってコモディティにペッグしていないので、国際的には弱い通貨。ロシアにとっても、これらの通貨だけで外貨準備を構成するのは実務的に限界が生じるとも思われます。
しかも、AEZ が拡大するとともに、ロシアが、アフリカや中南米の国々との自国通貨建ての交易を増やすことになれば、さらに脆弱な通貨を受け取らざるを得ない立場に追いやられます。それはロシアにとって、決して良いディールではありません。しかし友好国にまで「ルーブルもしくは金塊で支払え」というのは、Unipolar である米国覇権主義のやり方に近くなってしまいますし、Multipolarism を唱え、自国通貨での取引を推奨しているロシアとすれば、「米国の代わりにロシアが覇権を取るつもりか?!」という悪評にもつながってしまいます。
だからこそ、ロシアには「BRICSバスケット通貨」が必要なのです。友好国に対しては「BRICSバスケット通貨」での支払いを求めることにより、国際的に脆弱で為替変動リスクが大きい通貨の受け取りをやんわりと拒否する一方で、中国人民元やインドルピーを収入として得たら、ポートフォリオリスクを管理するために、その一部を「BRICS バスケット通貨」に換えておけばよいということになります。入手した中国人民元やインドルピーをすぐに売って直接ルーブルを買ったら、折角構築した BRICS との絆に亀裂が生じる可能性もありますが、「BRICSバスケット通貨」との交換であれば波風は立たないでしょう。
さて、この大きな仕組みが背景にあることを理解した上で、冒頭の取引を観ると、ものすごい策略が潜んでいることに気付きます。この取引は、BRICS 諸国に輸出して、BRICS の通貨を得た国々は、その通貨をロシアへの輸入代金に充てることができるという仕組みが出来上がったことを示しているからです。ロシア産の食糧やエネルギーを買いたければ、ロシアに輸出してルーブルを得ることが一番有効ですが、ロシアへの輸出品がなくても、BRICS への輸出があれば、BRICS の通貨を得て、ロシア産の食糧やエネルギーを輸入できることになりました。
つまり、ロシアから食糧やエネルギーを輸入したい国は、BRICS に輸出すればいいわけです。米国に輸出するよりも、そのほうがロシアからの輸入に都合がよいことになります。自動的に世界各国は BRICS との取引を望み、自動的に米国とは疎遠になっていくでしょう。世界中で、同じ条件なら BRICS を選ぶという流れができていきます。これは天才的な仕組みです。
BRICS は、multipolar を標榜しており、「排斥するWEST」とは異なり、「包摂するAEZ」というセーフティネットを賛同する国々に与えます。「openness」を第一に掲げたプーチンは、ロシアが米国の代わりに覇権国になるという unipolar 戦略の誘惑を跳ねのけて、当初の大戦略に殉じて、multipolar としての戦略を墨守しました。目先にチラつく独占利益よりも、他の多くの国が共鳴してくれる大義とビジョンを選んだところに、プーチンの指導者としての器を感じます。
BRICS 以外の国は、BRICS の国への輸出を振興し、BRICS の通貨を手に入れて、ロシアからの食糧・エネルギーの輸入において、BRICS の通貨で支払うことを考えます。BRICS への輸出がない国は、「BRICSバスケット通貨」を入手して、それをロシアへの輸入代金に充てることになります。結果的に、BRICS の通貨が集まってくることになるロシアは、それを外貨準備としてリスクマネジメントしながら保有し、富を蓄積する手法として「BRICSバスケット通貨」を設計すればよいのです。
いずれ AEZ においては、BRICS の通貨もしくは「BRICS バスケット通貨」で決済することが主流になっていくでしょう。「SWIFT 2.0」における主要通貨は、BRICS の通貨か「BRICS バスケット通貨」になっていきます。その中で、「ルーブル金本位制」で価値が金塊にソフトペッグされているルーブルの選好が高まれば、自ずとルーブルは、現在におけるドルの地位に近づいていきます。これは、市場原理に基づいた自然で無理のない戦略です。プーチンのブレーンたちの優秀さが光ります。
それに対抗するために「G7」が検討しているのが、ロシア産原油に対する Global Price Caps。市場原理を無視した、あまりの愚策にため息が出ます。プーチンのブレーンたちは、イエレン米財務長官の100倍は賢い。独仏伊はこのまま米英に振り回されていると、物凄く後悔することになります。いまなら、ユーロが「SWIFT 2.0+AEZ」に参入することにより、それなりの地位を確保できるでしょう。しかし、「BRICS バスケット通貨」が流通し、それなりのシェアを占めるようになってからでは手遅れです。ドルと同等にみなされて、BRICS の後塵を拝することになってしまうでしょう。
独仏伊は、ロシアとの対決姿勢からの転回を早く決断しないと、大きな国益を失うことになると思います。いまの首脳たちでは無理なのかもしれませんが・・・。
UltraTech Cement paying for Russian coal in Chinese yuan: Report
UltraTech importing from Russian producer SUEK, valued at 172.7 mn yuan; SUEK's Dubai unit facilitated trade from Russia's Vanino port; traders say other companies set to pay in yuan for Russian coal
2022.6.29【REUTERS】
India's biggest cement producer, UltraTech Cement, is importing a cargo of Russian coal and paying using Chinese yuan, according to an Indian customs document reviewed by Reuters, a rare payment method that traders say could become more common. UltraTech is bringing in 157,000 tonnes of coal from Russian producer SUEK that loaded on the bulk carrier MV Mangas from the Russian Far East port of Vanino, the document showed. It cites an invoice dated June 5 that values the cargo at 172,652,900 yuan ($25.81 million).
Two trade sources familiar with the matter said the cargo's sale was arranged by SUEK's Dubai-based unit, adding that other companies have also placed orders for Russian coal using yuan payments.
The increasing use of the yuan to settle payments could help insulate Moscow from the effects of western sanctions imposed on Russia over its invasion of Ukraine and bolster Beijing's push to further internationalise the currency and chip away at the dominance of the U.S. dollar in global trade.
The sources declined to be identified as they are not authorized to speak to the media. UltraTech and SUEK did not respond to a request seeking comment. "This move is significant. I have never heard any Indian entity paying in yuan for international trade in the last 25 years of my career. This is basically circumventing the USD (U.S. dollar)," a Singapore-based currency trader said.
The sale highlights how India has maintained trade ties with Russia for commodities such as oil and coal despite the western sanctions. India has longstanding political and security ties with Russia and has refrained from condemning the attack in Ukraine, which Russia says is a "special military operation".
It was not immediately clear which bank opened a letter of credit for UltraTech and how the transaction with SUEK was executed. SUEK did not respond to a request seeking comment. The Mangas is currently at anchor near the Indian port of Kandla, according to ship-tracking data on Refinitiv Eikon.
India has explored setting up a rupee payment mechanism for trade with Russia, but that has not materialized. Chinese businesses have used the yuan in trade settlements with Russia for years.
For Indian trade settlements using the yuan, lenders would potentially have to send dollars to branches in China or Hong Kong, or Chinese banks they have tie-ups with, in exchange for yuan to settle the trade, two senior Indian bankers said. "If the rupee-yuan-rouble route turns out to be favourable, the businesses have every reason and incentive to switch over.
This is likely to happen more," said Subash Chandra Garg, a former economic affairs secretary at India's finance ministry. India's bilateral trade with China, for which companies largely pay in dollars, has flourished even after a deadly military clash between the two in 2020, though New Delhi has increased scrutiny on Chinese investments and imports, and banned some mobile apps over security concerns.
An Indian government official familiar with the matter said the government was aware of payments in yuan. "The use of the yuan to settle payments for imports from countries other than China was rare until now, and could increase due to sanctions on Russia," the official said.
India's energy imports from Russia have spiked in the recent weeks as traders have offered steep discounts, Reuters reported this month. New Delhi defends its purchases of Russian goods saying a sudden halt would inflate prices and hurt consumers. Business units of Russian coal traders in Dubai have become active hubs for facilitating deals with India in the recent weeks, as Singapore has grown wary of provoking western nations that invoked sanctions against Russia, said multiple coal traders based in Russia, Singapore, India and Dubai. A Russian coal trader based in Dubai said the biggest challenge was sending roubles to Russia. "You can either take payments in yuan in Dubai, or receive it in dollars or (Arab Emirates) dhiram and convert it to rouble" he said, adding it was easier to convert the yuan to rouble and was preferred over other currencies. ($1 = 6.6899 yuan)
【読む・観る・理解を深める】
➡【今後のロシア経済を予測する際の留意点①】 プーチンが仕掛ける「SWIFT 2.0」
➡【今後のロシア経済を予測する際の留意点②】プーチンが仕掛ける「ルーブル金本位制」
➡【今後のロシア経済を予測する際の留意点③】「unipolar」vs「multipolar」の戦いの行方
➡【今後のロシア経済を予測する際の留意点④】「AEZ+SWIFT 2.0」が本格的に台頭する
➡【今後のロシア経済を予測する際の留意点⑤】「新冷戦」の勃発と「ドル本位制」の終焉
➡ The Bretton Woods 3:国際金融システムが大変革する!
➡ プーチンと習近平は、ドルを基軸通貨とした国際経済に戦いを挑む?! これは両国にとってチャレンジする価値のある戦いだ!
➡ ペトロダラー体制の崩壊?:これって、マジで「ドル本位制」から「マルチカレンシー制」へと展開したい勢力がかなりいるってことだよね。
➡ プーチンは、マジで「米ドル経済圏からの離脱」を考えているのか? もし、そうなら、一大事件だ! 中国・インド・ブラジルは追随するだろう。
➡ 経済制裁でプーチンは失脚しませんよ。キューバを見なさい。イランを見なさい。それが現実です
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