【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編①】
*渡部悦和 元陸上自衛隊東部方面総監
*小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師

「ロシア軍は兵器不足で攻撃できなくなる!」とのたまう2人の専門家の話がテレビから流れてきたときは、本当に呆れた。浅はかな付け刃の知識でしゃべりまくるテレビキャスターの古館伊知郎か、ついつい知らないことを知っているように話してしまう経済評論家の上念司かと思って、念のため、画面を観てみたら、自衛隊の元陸将と安全保障が専門の大学講師だったので腰を抜かした。

渡部悦和氏は、元自衛隊陸将の立場だから、米軍(=米国)のフレーミングに乗っかって話すしかないことはわからないではない。だったら、テレビに呼ばれただけで喜んじゃって、バカなことを吹聴してはいけない。自衛隊の信頼が崩れるではないか。長尺の youtube 番組では、ヌーランド国務次官のことやアゾフ大隊のことに一切触れないで、米国の narrative に沿ったおはなしを一生懸命に話していた。呆れたのは、角茂樹元ウクライナ大使の「嘘」を証拠として、「ウクライナにネオナチはいない」などという程度の低い議論を展開したこと。情けないことこの上ない。

「元自衛隊陸将ともあろう人物が、米国の narrative の裏を知らないはずがない」と思いたい。「助力をお願いする米軍の手前、米国のポリシーに反することは話さないというのがマナーなのだろう」と思いたい。しかし、「自衛隊のトップならば、米国の裏を含めて深く読みこんで、日本の国益のことを考えて先の先の手を打っているに違いない」と思いたい国民の一人としては、あまりにも表層的な分析と発言で哀しくなる。知性も、度量も、策謀も感じられないレベルの話に終始していた。

一国民としては、自衛隊の高官は、表沙汰にできない権謀術数を駆使していると信じていたいので、メディアに出るのは下っ端に任せて、自衛隊トップは、作戦や諜報に時間を割き、絶対に表に出るべきではないと思う(この程度のレベルであれば、退官後も同じ扱いにした方が良い。用田元陸将は別)。冒頭で指摘したように、民放の地上波に出て、「ロシア軍は兵器不足で攻撃ができなくなる」という恥ずかしくなるような予測を披歴するには至っては、悲劇を超えて喜劇である。まるでピエロだ。

小泉悠氏は、所詮「研究者」というか「現実を知らない学者」だから、まあ、仕方ないか、という感じはあるが、ロシアの軍事や安全保障を専門に研究している割に識見が浅すぎて哀しくなる。まあ、ちょっと前にも「ロシア軍は食糧不足で撤退を余儀なくされる」と予測していた人たちがたくさんいたし、「ロシア国民は砂糖が手に入らなくて社会不安が起こる」と断言していた経済の専門家もおおぜいいたから、別に呆れはしないが・・・。

しかし、極右組織のことにしても、「Neo-Nazi」で検索すれば、海外の主流メディアにおいて、「ウクライナにおける極右組織」として紹介されている動画やニュースに出遭える。「Neo-Nazi」というのは超国粋主義者で、他国の外国人を排斥することも説明されていて、「Neo-Nazi=反ユダヤ」ではないことも「当たり前の常識」。そういう基本的な事実関係のところを押さえていない「専門家」は、専門家と名乗るべきではないだろう。

それなのに、専門家と自称する小泉悠氏が、「ゼレンスキーはユダヤ人なのに、ウクライナ政権がネオナチだなんてプーチンはおかしいですよねぇ」なんていっている。おかしいのは、そういうことを公の場でしゃあしゃあと言える小泉氏の知性のほうだ。向こうから接触してきた米国関係者からそれらしい情報でお墨付きをもらって、安心して narrative を話しているだけかもしれないが・・・。







 【読む・観る・理解を深める】
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点①】プーチンはなぜ侵攻に踏み切ったのか?
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点②】米国の思惑とウクライナの実情を知る
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点③】ウクライナに駐在した元NATO将校の証言
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点④】軍事専門家の分析と偏向報道を比べる
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点⑤】戦争は2014年からずっと続いている
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元 CIA の Larry Johnson が自分自身でHPを運営して、ウクライナ情勢について解説しています。極めて詳細な分析なので、大変参考になります。
➡ 軍事専門家 Scott Ritter は「ロシアは情報戦に興味がなく、地上戦での勝利に集中している。西側の情報では実際の戦況はわからないが、ロシアは軍事目標を達成したように見える」と指摘。
➡ 元米陸軍大佐 Douglas McGregor による分析は、米国の主流マスコミとはかなり異なります。MUST WATCH!
➡ ウクライナ危機の歴史・背景・実情に関する解説動画です。ものすごく勉強になります。ロシアのディスインフォーメーションだと断じる人たちこそ、観るべき動画です。
➡ ウクライナを語るのであれば、最低限「オデッサの惨劇」を知っておく必要があります。この事件を知らなければ、今回のロシア侵攻を語る資格はないと思います。