ウクライナ情勢を分析する際の留意点⑤(2022.5.21)
ーー 戦争は8年前からずっと続いている ーー

この「Donbass Behind Us」という楽曲は、作曲家の Mikhail が数年前に着想を得て温めていたメロディに、ドンバス出身の Vladimir が故郷の苦境を嘆いた歌詞を加えて完成に至りました。そこで、素晴らしい歌姫2人を得たので、The Day of the Liberation of Donbass(2020.9.7)にネット上で発表したところ、ものすごい反響を得て、翌年2021年2月27日に正式リリースされた楽曲です。

今回のウクライナ戦争に合わせて創られた曲ではなく、ドンバス内戦で戦い、ウクライナ政府に苦しめられているロシア系住民の同胞に対して、「すべてが捻じ曲げられ、国も失われた。戦火で天は燃え盛り、煙でくすんでいるけれど、私たちがついている。ロシアが助けてくれる。神が味方している」と激励する軍歌です。ロシアでは共感する人々が多く、歌姫2人はあっと言う間に時の人になりました。

したがって、少なくとも、今回のウクライナ戦争のプロパガンダのために創られた曲ではありません。また、ネットで発信したほとんど編集のない動画が大反響を呼んだことが正式リリースの切っ掛けになったことから見ても、「政府から与えられた官製の曲」ではなく、「ロシアの人々の共感を誘った民衆の作品」だったといえるでしょう。

この「Donbass Behind Us」という楽曲からわかることは、ロシア人にとって、今回の戦争は、今年始まったものではないという歴然とした事実です。少なくとも彼らにとっては、ウクライナ戦争はすでに2014年から続いている「常態」なのです。そして今回の侵攻は、どんなに叫んでも西側には届かず、無視されて足蹴にされただけでなく、西側と組んだウクライナ政府に同胞を殺され続けた無念の雄叫びの集大成だと感じているに違いありません。

ロシア軍によるウクライナ侵攻が責められることは当然です。しかし、8年もの間、ドンバスにおける人びとの阿鼻叫喚を知りながら黙殺し隠蔽してきたウクライナ政府と西側も責められるべきでしょう。少なくとも、ミンスク合意を遵守しなかったウクライナ政府と、ウクライナ政府に遵守させなかったフランスとドイツは自らの怠慢と偽善と力のなさを深く反省すべきです。

テレビに出てくる「せんもんか」たちにはそういう認識がないから、薄っぺらくて嘘っぽいのです。



 【読む・観る・理解を深める】
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点①】プーチンはなぜ侵攻に踏み切ったのか?
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点②】米国の思惑とウクライナの実情を知る
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点③】ウクライナに駐在した元NATO将校の証言
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点④】軍事専門家の分析と偏向報道を比べる
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点⑤】戦争は2014年からずっと続いている
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元 CIA の Larry Johnson が自分自身でHPを運営して、ウクライナ情勢について解説しています。極めて詳細な分析なので、大変参考になります。
➡ 軍事専門家 Scott Ritter は「ロシアは情報戦に興味がなく、地上戦での勝利に集中している。西側の情報では実際の戦況はわからないが、ロシアは軍事目標を達成したように見える」と指摘。
➡ 元米陸軍大佐 Douglas McGregor による分析は、米国の主流マスコミとはかなり異なります。MUST WATCH!
➡ ウクライナ危機の歴史・背景・実情に関する解説動画です。ものすごく勉強になります。ロシアのディスインフォーメーションだと断じる人たちこそ、観るべき動画です。
➡ ウクライナを語るのであれば、最低限「オデッサの惨劇」を知っておく必要があります。この事件を知らなければ、今回のロシア侵攻を語る資格はないと思います。