ウクライナ情勢を分析する際の留意点③(2022.4.12)
ーー ウクライナに駐在した元NATO将校の証言ーー
スイスの元情報将校でNATOに従軍し、ウクライナの実態にも詳しい JACQUES BAUD が、ウクライナ戦争の背景や欧米政治家の失政を詳細に解説しています。長文なので、概要をご紹介します(それでも、長文ですが・・・)。
ーー ウクライナに駐在した元NATO将校の証言ーー
スイスの元情報将校でNATOに従軍し、ウクライナの実態にも詳しい JACQUES BAUD が、ウクライナ戦争の背景や欧米政治家の失政を詳細に解説しています。長文なので、概要をご紹介します(それでも、長文ですが・・・)。
【2014年からの内戦】
・2014年2月、米国主導のクーデターによって生まれたウクライナの新政府は、ロシア語を公用語から排除した。その結果、2014年2月からロシア語圏(ドンバスを含む)に対する激しい弾圧が行われ、恐ろしい虐殺(オデッサとマリウポリ等)も行われた。
・2014年5月にドネツクとルガンスクの「自称共和国」が行った住民投票は「独立」のためではなく「自決」のためだったが、この国民投票はプーチンの助言に反して行われた。これらの共和国は分離・独立を求めていたのではなく、ロシア語を公用語として使用することを保証する自治権を持つことを求めただけだった。
・ロシアから自称共和国への武器や軍事機器の搬入はなかった。共和国の反乱軍が武装できたのは、ロシア語を話すウクライナ人部隊が反乱軍側に加わったため。戦車・大砲・対空砲の大隊が、ドンバスの自治政府側に参加した。
・ミンスク協定①に署名した直後、ウクライナのポロシェンコ大統領はドンバスに対して大規模な「反テロ作戦」を開始したが、ウクライナ軍は大敗し、ミンスク協定②が合意された。
【ロシアの基本スタンス】
・ミンスク合意(①2014/9・②2015/2)は、共和国の「分離・独立」を定めたものではなく、ウクライナの枠内での「自治」を定めたものである。共和国の地位は、ウクライナ国内の解決のために、キエフと共和国の代表との間で交渉することになっている。
・ロシアは、上記の事情を十分に理解しているので、2014年以降、ミンスク合意の履行を要求する一方で、「ウクライナの内政問題」として交渉の当事者となることを拒否してきた。
・2022年2月23~24日以前の時点で、ドンバス地域にロシア軍が駐留したことはなかった。
【ウクライナ軍の実態と民兵の依存】
・ウクライナ軍の実態は悲惨だった。2018年10月、ドンバスで2,700人が軍役を離れたが、その内訳は、病気891人、交通事故318人、その他の事故177人、アルコール・麻薬中毒175人、武器の取扱い不注意172人、保安規定違反101人、殺人228人、自殺615人だった。
・ウクライナ軍は幹部の腐敗していて弱体化していたため、国民は支持しなかった。例えば、2014年春に行われた予備役の召集では、第1回に70%、第2回に80%、第3回に90%、第4回に95%が姿を見せなかったし、2017年秋のキャンペーンでは70%の徴兵が来なかった。
・兵士不足を補うために、ウクライナ政府は民兵に依存した。2020年には、民兵が102,000人になり、ウクライナ軍の40%を占めた。
・米国・英国・カナダ・フランスの支援によって武装し訓練を受けた民兵は、2014年からドンバスで活動していたが、これらの民兵は、暴力的で狂信的で残忍な個人で構成されていた。ウクライナの民兵を「ネオナチ」と呼ぶのは、ロシアのプロパガンダとみなされているが、その手の輩の集まりであることは事実だ。
・2014年以降、民兵は、民間人に対する数々の犯罪(レイプ・拷問・虐殺)を犯したが、欧米諸国は支援し続けた。これらの民兵は、ウクライナの国家警備隊に統合されたが、その際に「非ナチ化(非凶暴化)」はされなかった。
【開戦前夜】
・2021年3月24日、ゼレンスキー大統領は、クリミア奪還の政令を発し、南方への軍備配備を開始。同時に、黒海とバルト海の間でNATOの演習が行われ、ロシア国境沿いの偵察飛行も大幅に増加した。これに対抗するため、ロシアも軍事演習を実施し、2021年秋に演習が終了。事態は一旦落ち着いたが、ロシアの演習はウクライナへの攻勢を強めるものと解釈された。
・ミンスク合意に反して、ウクライナはドンバスで無人機を使った空爆を行っており、2021年10月にはドネツクの燃料庫を攻撃した。欧州のマスコミは、そのことを報道しなかったし、これらの違反を非難する者はいなかった。
・2022年2月7日、モスクワを訪問したマクロン仏大統領は、プーチンに対し、ミンスク合意へのコミットメントを再確認し、翌日のゼレンスキーとの会談でもこの合意へのコミットメントを確認したが、2月11日、ベルリンで行われた会議は、具体的な成果なく終わった。
・ウクライナ側が、ミンスク合意の適用を拒否したのは、米国の圧力によるものだった。プーチンは「マクロンは空約束をした。欧米諸国には合意を履行する準備ができていない。これは、欧米諸国がこれまで8年間示してきた『和解への反対』と同じだ」と厳しく指摘した。
・2月15日、ウクライナが戦争準備を進めていたため、ロシア議会は、プーチン大統領に共和国の独立を認めるよう要請したが、プーチン大統領はこれを拒否した。
・2月16日からドンバスの住民に対するウクライナ軍の砲撃が劇的に増えたが、メディアも、EUも、NATOも、欧米政府も反応せず、介入もしなかった。EUや米国は、ドンバス住民が虐殺されており、それがロシアの介入を誘発することを知りながら、意図的に沈黙を守った。
・プーチン大統領は「ドンバスを軍事的に助けて国際問題を引き起こすか」「ドンバスのロシア語圏の人々が潰されるのを傍観するか」という難しい選択を迫られた。もしも、プーチンが「ロシア人を保護する」という大義名分で介入したとすれば、その内容や規模がどうであれ、軍事介入が欧米からの制裁の嵐を巻き起こすことも知っていた。したがって、ロシアの介入がドンバスに限定されようが、ウクライナの地位をめぐって欧米に圧力をかけようが、支払うべき代償は同じだった。プーチンは、2月21日の演説でその考え方を明確にした。
・バイデン米大統領は、当然、2月16日の時点でウクライナ軍がドンバスの民間人に対する激しい砲撃を開始したことを知っていた。しかし、その情報を伏せたままで、2月17日に、いかにもロシア内部の機密を得ていることを誇示するかのように、バイデンは「ロシアが数日以内にウクライナを攻撃する」ことを公表した。
・2月21日、プーチンはドンバス2共和国の独立を承認し、同時に友好・援助条約に調印した。ウクライナのドンバス住民への砲撃が続いたため、2月23日、両共和国はロシアに対して軍事支援を要請した。2月24日、プーチンは国際連合憲章第51条を発動し、防衛同盟の枠組みにおける相互軍事支援を規定した。
・欧米諸国は、ロシアの介入を完全に違法だと思わせるため、2月16日に戦争が始まったという事実を意図的に隠蔽し続けている。
【ロシア軍によるウクライナ侵攻】
・2月24日、プーチンは作戦目的がウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」であることを明確化した。ウクライナを征服することも、占領することも、破壊することも意図していない。
・「非武装化」は、①ウクライナの航空・防空システム・偵察資産の地上破壊、②指揮・情報構造および領土の奥深くにある主要な物流経路の無力化、③南東部に集結しているウクライナ軍の大部分を包囲することを含んでおり、「非ナチ化」は、オデッサ、ハリコフ、マリウポル、および領土内の様々な施設で活動する義勇軍大隊の破壊または無力化を指している。
・ロシアの攻勢は、空軍を地上から破壊することから始まった。そして、陸軍は、抵抗の弱いところではどこでも前進し、都市部は後回しにするという方針に従って、同時に進行した。北部のチェルノブイリ原発は、破壊工作を防ぐために直ちに占拠された。
・「ロシアがゼレンスキーを排除するために首都キエフを占拠しようとしている」というのは、欧米諸国の妄想である。プーチンはゼレンスキーを殺したり、倒すつもりはない。ロシアは、キエフを包囲することによって、彼に交渉を迫り、政権を維持しようとしている。ウクライナの「中立」を手に入れたいからだ。
【ウクライナ戦争の現状】
・ロシアは、第2次世界大戦のナチス軍以上の速さで、6日間で英国と同じ広さの領土を占領した。ウクライナ軍の大部分は、対ドンバスの作戦に備えて、同国南部に配備されていたため、ロシア軍は3月初めからスラビャンスク・クラマトルスク・セベロドネツクという都市をつないで蓋をし、東からハリコフを経て、南からはクリミアからの推力でこれを包囲した。
・ロシア軍は、徐々に包囲網の縄を締めているが、時間的なプレッシャーやスケジュールはない。「非武装化」に関するロシアの目標はほぼ達成されており、残存するウクライナ軍にはもはや作戦・戦略上の指揮系統はない。
・欧米の「専門家」は、兵站の悪さを理由にして「ロシアは作戦を変更した」と説明するが、その動きは軍事目的を達成した結果でしかない。ロシアはウクライナ全土の占領を望んでいないし、ロシアは陸軍の進出を言語境界線に限定しようとしている。
・結局のところ、代償は高くつくが、プーチンは自ら設定した軍事目的を達成する可能性が高い。中国との関係は強固になった。
【民兵に依存するウクライナ軍の問題】
・ハリコフ・マリウポリ・オデッサなどの都市では、ウクライナの防衛は準軍事的な民兵によって担われている。彼らは「非ナチ化」の目的が自分たちを対象としていることを知っている。
・都市化された地域を攻撃する側にとって、市民は問題なので、ロシアは人道的回廊を作り、都市から民間人を排除し、民兵だけを残して、戦いやすくしようとしている。しかし、民兵側は、ロシア軍がそこで戦うことを思いとどまらせるために、都市部の市民を避難させないようにしている。民兵は人道的回廊の設置に消極的で、ロシアの作戦が成功しないようにあらゆる手段を講じる。そして、「人間の盾」として一般市民を利用する。
・メディアは、ウクライナ人による民衆の抵抗というイメージを広めている。EUが市民への武器配布に資金を提供したのも、こうしたイメージのためだ。しかし、市民に対して武器を与えたら、市民は戦闘員になることになるため、攻撃されても仕方がない。
・戦闘員による市民に対する暴力は、武器が豊富にあり、指揮系統が存在しない場合に発生する。現在のように無計画に市民を武装させると、市民を戦闘員になり、結果的に市民を潜在的な標的にするようになる。指揮もなく、作戦目標もない中で、武器を配ると、必然的に決闘や盗賊行為を発生させる。そうなると、戦争は感情に支配されてしまい、力は暴力と化してしまう。
・戦争は、軍に委ねられるべきだ。一方が負けたときには、それを認めなければならない。そして、もし抵抗があるならば、それは指導され、組織化されなければならない。しかし、EUは正反対のことをしている。欧米諸国は、市民に戦場に行くよう促し、SNSは、ロシアの兵士の殺害を呼びかけることを許している。火に油を注ぐより、交渉に臨み、民間人への保障を得た方が良い。
・マリウポリを守っていたのはウクライナ軍ではなく、外国人傭兵で構成されたアゾフ民兵隊である。彼らはマリウポリ市の第1出産病院から職員を追放し、施設内に射撃基地を設置した。この病院は、対戦車兵器の設置や監視に最適な優位な位置にある。
・3月9日にロシア軍はこの建物を攻撃し、17人が負傷したとされているが、画像には建物内の死傷者は写っておらず、言及されている犠牲者や子供がこの空爆と関係があるという証拠もない。それでもEUの指導者たちは、これを戦争犯罪と断定している。
【欧米政治家の問題】
・欧米の政治家たちは、ドンバスでの民間人による攻撃を8年間も受け入れ、ウクライナ政府に対するいかなる制裁措置も採用しなかった。欧米の政治家たちは、「ロシアを弱体化させる」という目的のために、国際法を犠牲にすることに同意している。
・欧米の情報機関は、状況を正確に伝えていないか能力が劣っている。また、欧米諸国では、情報機関が政治家に圧倒されているという実情がある。意思決定をするのは政治家なので、政治家が耳を貸さなければ、世界最高の情報サービスも意味をなさない。
・欧州の一部の国では、政治家が意図的にイデオロギー的な対応をしている。この危機の中で国民に提示された文書はすべて、政治家が商業的な情報源に基づいて提示したものである。
・米国の政治家の中には、明らかに紛争を望んでいる者がいる。例えば、ブリンケンが国連安全保障理事会に提示した攻撃シナリオは、彼の下で働く私的チームの想像力の産物に過ぎなかった。彼は、自分自身の目的に不都合なCIAなどの情報を無視した。
【悲しむべき現実と偽善の蔓延】
・ウクライナの人々や200万人の難民に思いやりを示すことは、結構なことだが、同じ数のドンバスのウクライナ人がウクライナ政府によって虐殺され、ロシアに避難した。もし、彼らに対して、私たちが同情していれば、こんなことは起こらなかった。
・もし、ミンスク合意をウクライナに遵守させるよう主張していれば、このような事態は起きなかった。マクロン仏大統領も、ショルツ独首相も、ゼレンスキー大統領も約束を守っていない。
・EUはミンスク合意の履行を推進できず、それどころか、ウクライナがドンバスで自国民を空爆していたときも反応しなかった。反応していたら、プーチンは侵攻する必要がなかっただろう。
・ウクライナでは、欧米諸国がお墨付きを与えた形で、ロシアとの和平に賛成する人が排除されるようになった。ウクライナ側の交渉官の1人は裏切り者とみなされ、3月5日にウクライナ秘密情報局(SBU)によって暗殺された。さらに、SBUのキエフ地域担当の元副局長は、3月10日に民兵に撃たれて暗殺された。この民兵はMirotvoretsというウェブサイトに関連している。Mirotvoretsでは「ウクライナの敵」を個人情報、住所、電話番号とともにリストアップし、嫌がらせや抹殺ができるようにしている。この行為は多くの国で罰せられるが、ウクライナではそうではない。
・なぜ西側の政治家は8年間もドンバスの民間人に対する攻撃に反応しなかったのだろうか。ウクライナでの紛争が、イラク、アフガニスタン、リビアでの戦争よりも非難されるべきなのはなぜなのか。不当、不正、殺人的な戦争を行うために国際社会に対して意図的に嘘をついた人たちに対して、私たちはどのような制裁を採用したのか。「世界最悪の人道的災害」とされるイエメン紛争に武器を供給している国、企業、政治家に対する制裁を一つでも採用したことがあるだろうか。米国の利益のために、自国の領土で最も忌まわしい拷問を行う欧州連合の国々を制裁したのだろうか。この世界は「偽善」に満ちている。
【読む・観る・理解を深める】
➡【ウクライナ情勢を分析する際の留意点①】プーチンはなぜ侵攻に踏み切ったのか?
➡【ウクライナ情勢を分析する際の留意点②】米国の思惑とウクライナの実情を知る
➡【ウクライナ情勢を分析する際の留意点③】ウクライナに駐在した元NATO将校の証言
➡ 元 CIA の Larry Johnson が自分自身でHPを運営して、ウクライナ情勢について解説しています。極めて詳細な分析なので、大変参考になります。
➡ メインメディアの報道と事実は異なり、すでにウクライナ軍はロシア軍に敗北した???
➡ 軍事専門家 Scott Ritter は「ロシアは情報戦に興味がなく、地上戦での勝利に集中している。西側の情報では実際の戦況はわからないが、ロシアは軍事目標を達成したように見える」と指摘。
➡ 元米陸軍大佐 Douglas McGregor による分析は、米国の主流マスコミとはかなり異なります。MUST WATCH!
➡ ウクライナ危機の歴史・背景・実情に関する解説動画です。ものすごく勉強になります。ロシアのディスインフォーメーションだと断じる人たちこそ、観るべき動画です。
➡ ウクライナを語るのであれば、最低限「オデッサの惨劇」を知っておく必要があります。この事件を知らなければ、今回のロシア侵攻を語る資格はないと思います。
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