2020.9.15

中小企業における 「生産性」 を向上させる処方箋

―― 企業規模の拡大は、日本経済の改善に寄与するか? ――

(別稿5) 大企業は 「失業者の再雇用」 に貢献するか?

「企業規模拡大論者」のリーダーであるデービッド・アトキンソン氏は、「360万社ある中小企業を200万社弱に統廃合すべきだ!」と提言しています。彼のロジックは、下記のとおりです。

――  企業の規模が大きくなればなるほど生産性が上がる、という経済の大原則があります。企業規模が大きくなれば分業ができますので、社員の専門性が上がって、一人ひとりが自分のスキルを最大限に発揮できるようになります。小さな企業よりも利益が集約されて、絶対額が大きくなりますので研究開発や人材開発などにも力を入れることができます。(「『中小企業の改革』を進めないと国が滅びるワケ」デービッド・アトキンソン《東洋経済Online》:2019.9.20

―― 日本では、大企業で働く労働人口は全体の12.9%で、87.1%の労働人口が中小企業で働いています。また、20人未満は20.5%とアメリカの2倍近い水準なのです。これだけ小さい規模で働く人の割合が多いということは、どんなに大企業の生産性を上げても、その効果がほかの先進国に比べるとかなり小さく、限定的になるということです。(同上)

アトキンソン氏の論理を簡単に示すと、下記のとおりです。

① 大企業は生産性が高く、中小企業は生産性が低い。

② 大企業の生産性が高いのは、規模の経済が働くからだ。

③ 中小企業を潰し、人員を大企業に移動すれば、国全体の生産性が上がる。

端的に申し上げると、「中小企業には潰れてもらい、仕事と人員は大企業に吸収させればいい。そうすれば、生産性が低い中小企業が淘汰されるから、平均値としての生産性は上がる」というストレートな論理になります。そして、彼は、「この論理が正しい」という前提の下で、最低賃金の引き上げ(毎年5%)を唱えています。「最低賃金の引き上げに耐えられないような中小企業は潰れてしまえばよい」と考えているからです。

しかも、「少子高齢化で人手不足だから、失業した人は、拡大志向で生産性が高い大企業が雇うだろう」という楽観的な見通しに立っています。しかしながら、中小企業が潰れた結果、失業した人を大企業が雇うとは限りませんし、再就職できたとしても、大企業の最下層に組み込まれて、低賃金で働くだけです。

そこで、少し発想を変えて、アトキンソン流に考えてみましょう。じつは、中小企業を潰したいのなら、もっと効果的で効率的な手があります。それは、大企業が、中小企業にいる即戦力の人材に対して、高給を提示して引き抜いてしまう、という方法です。これをやられやら、ただでさえ人手不足で困窮している中小企業は、ひとたまりもなく破綻してしまうでしょう。この方法は、わざわざ政府や政策の手を借りなくても、大企業が実施するだけで簡単にできる方法です。もしも、アトキンソン氏が主張しているとおり、中小企業が破綻した場合には、あぶれた人たちが大企業に吸収されるというのであれば、生産性や効率性に理解が深い戦略的な大企業であればなおさらのこと、中小企業が破綻するのを待つことなく、自ら中小企業に勤めている主だった人材を引き抜いて、雇用を増やし、さらに生産性を引き上げるための手を打つに違いありません。

本当に大企業が中小企業の戦力を引き抜くつもりなら、処遇や給与で厚遇できるから、いくらでも簡単に引き抜けます。だけれども、大企業は、中小企業を辞めた人を積極的に雇おうとはしていないし、よほど有能な人以外は、途中入社しても出世できません。そもそも他社から、引き抜くという態勢が整っておらず、引き抜こうという意図などないわけです。

実際、最近の動向を窺うと、他社から人材を引き抜くどころか、大企業においては、45歳以上の正社員を大量にリストラしている真っ最中です(しかも、前年の2倍のスピードです)。そして、大企業が、中小企業の人たちを大量に採用したという話は、寡聞にして聞いたことがありません。

アトキンソン氏の理論が正しいのであれば、大企業になれば生産性が高いはずです。しかしながら、日本の大企業は、生産性が低いと思われる中高年をどんどんクビにして、高い生産性を維持しようとしています。つまり、日本の大企業は、高い生産性と効率性を活かして、さらに雇用を増やすことにより、拡大再生産を目指そうとはしておらず、縮小均衡の中で、リストラを行うことによって、相対的な生産性の高さを維持しようと考えているだけというのが現実なのです。

したがって、アトキンソン氏の理論を取り巻く日本経済の実相は、下記のようになります。アトキンソン氏の理論を採用する際には、十分な注意が必要です。

① 大企業は生産性が高いように見えるが、拡大再生産を目指していない。

② 大企業には、規模の経済は働くけれど、規模の不経済も働く。

③ 中小企業が潰れたら、失業した人員は行くところがなくなる。


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➡ 軽々しく省力化投資とかIT投資などを唱えるエコノミストは実際の経営を知らない素人。実践のない机上の空論では、企業も、経済も、うまく回りません。そんなこともわかってない。も参考になります。

➡ マスコミには、AI や RPA の有効性を声高に語る「専門家?」が大勢いますが、だいたいは、AI や RPA を売りたい人の代理人。何だかPCA検査やコロナワクチンと同じ匂いがしますね。も参考になります。

➡ 菅政権における経済政策の問題点について、理論的に考えてみたい方は、「生産性」に関するアトキンソン理論の検証①:はじめにから読んでみてください。