(前方に、ワシントンD.C.の市街地が見えてきた・・・。この市街地における建物群は低く広がっており、「アメリカ独立宣言」を起草した第3代大統領であったトーマス・ジェファーソンの願いを反映している。ジェファーソンは、低層で便利な建物と明るく風通しのよい街路を備えた「アメリカのパリ」にしたいと願っていたのだ。だから、いまでも、ワシントン記念塔は、ワシントンD.C.における最も高い建造物のままであった・・・。ワシントンD.C.の市街を東部から連邦議会議事堂を望むと、左下に連邦最高裁判所が、右上に細長い白い塔が見える。ワシントン最高峰を誇るワシントン記念塔である。ホワイトハウスは、議事堂から右斜め上方へ延びるペンシルベニア大通りの先にある。議事堂から記念塔を経てポトマック川に至る細長い緑地はナショナル・モール(National Mall)と呼ばれ、大規模な集会や行進を含む多くの抗議やデモが頻繁に行われる場所でもある。1963年のワシントン大行進や、1995年のミリオン・マン・マーチ等が有名だ。毎年7月4日の独立記念日には、議事堂主催の記念式典が催され、花火が打ち上げられて華やかな雰囲気になる。1月20日の大統領就任式の日も、アメリカ全土から大勢が集まるに違いない・・・。)

(ジャック・バウワーは、この間、一言も言葉を挟まずに、ジョー・バイデンの長い講義を黙って聴いていた。しかし、同時に、饒舌にしゃべり続けるバイデンの頭脳の切れに違和感を抱き続けていた。・・・これが「認知症」の男の頭脳なのか・・・博覧強記ともいえる歴史事実の把握に加え、表だけでなく裏までも的確な歴史認識を披露できる読みの深さ・・・失言を続けるいつものダメジジイの面影がない。・・・バウワーの脳内の奥深いところで産まれた疑念は、消えることなく、密かに浸み込んで広がりをみせている・・・。長年修羅場で戦い続けてきた第六感が異常を知らせている・・・。しかし、いまはとにかく、このジジイをトランプのところに届けるだけだ。・・・100m先に、クロエ・オブライエンの姿とHI-ACE DARK PRIMEが見えてきた・・・。4WDで5人が楽々と乗れるバンだ。船室内に山積みになっている武器の数々を身に着け、リュックに詰め込めるだけ詰め込んだジャックは、バイデンに低く太い声で命じた・・・準備はいいか!・・・)

ああ、ジャック・・・いつでもいいぞ・・・あそこに見えている女性が仲間なんだな・・・先に行くお前に続いて、あそこに見えているバンに乗り込めばいいんだろ。助手席には、トニーが乗り込むだろうから、俺は後部座席でいいよな・・・。わかった、わかった。それぐらいは、独りでできるよ・・・バカにするな。それくらいの体力は回復しているさ。・・・これで、いよいよトランプに会えるな・・・直接、訊きたいこともあるし、今後のために打ち合わせることもたくさんある・・・。さあ、忙しくなるぞ・・・。

(3人を乗せたクルーザーは、静かに波止場に着いた。トニー・アルメイダはクルーザーのビットにロープを巻きつけ、停泊させる作業を終えようとしている。ジャック・バウワーは、周りの動静を窺いながら船室を出て、短い桟橋を速足で走り抜けた。風を切って、クロエ・オブライエンの下に駆け寄る。その後に、意外に敏捷な動きをしているジョー・バイデンが続く・・・。クロエがバウワーに駆け寄り、ギュッとハグをした。・・・準備は万端か?・・・「ええ、じつは、少し気になることが・・・」クロエが耳元でバウワーに話しかけようとした瞬間、ジャックの耳に聞き覚えのあるプロペラ音が迫ってきた。・・・)

バリリ、バリリ、バリリ、バリリ・・・

(トニーっ!・・・ジャックの掛け声を待つことなく、トニー・アルメイダは、船内にあったグレネードランチャーを取り出し、桟橋からヘリコプターに発射しようと身構える。しかし、トニーが発射する前に軍用ヘリはヘルキャットを発射した・・・。)

ド、ド、ド、ドカーン・・・。

(プラスチック爆弾を大量に積んでいたクルーザーは激しい轟音を立てて、燃え盛り、粉々に吹っ飛んだ・・・。すさまじい風圧が襲い掛かってきたが、トニー・アルメイダは、桟橋から岸にポジションを移して、発射態勢を整えた・・・。吹き止まぬ爆風をものともせず、グレネードランチャーをヘリにぶち込んだ。・・・)

ドッカーン・・・・・・・・・。ザバ、ザバ、ザバーン・・・

(襲い掛かってきたヘリコプターは、一発で運転席を破壊され、ポトマック川に墜落する・・・。大きな水飛沫がトニーとジャックとクロエに降りかかった。ジャックが抱え込んだクロエ・オブライエンは、さほど濡れていないが、ジャック・バウワーの背中は水浸しと言ってよい。ふと、忘れ物をしたように、ジャックは後ろを振り返った。・・・バイデンっ、大丈夫かっ!・・・大声で叫んだが、背中の方向から何も返事が返ってこない。反射的に、クロエから身体を離して、ヘリが墜落したばかりのポトマック川の方角を見渡す。しかし、老政治家の姿を探したが、影も形もない。・・・ひょっとして、今回の爆発に巻き込まれたのか・・・。いや、俺の後からすぐにクルーザーから降りたはずだから、いまの爆発に巻き込まれたとは思えない・・・。)

ブロロロロロ・・・

(そのとき、ジャックとクロエから100mほど離れた場所から、脱兎のごとく走り去ろうとしていた車がある。・・・Damn it !・・・どうも、ヘリの強襲に気を取られている間に、ジョー・バイデンが仲間とともに逃げ出したようだ。・・・しかし、どうしてここが・・・。いずれにしろ、考えている暇はない・・・。バンに乗り込んだジャック・バウワーは、ハンドルを握り、クロエとトニーが車内に入ったことを確認し、アクセルを深く踏み込む。タイヤが軋んだ音を立てて猛発進した。・・・バイデンが乗ったと思われる車は、街角を左折して、すでにその姿をジャックの視界から消えていた。第六感に従って、追跡を続けようとしたが、手掛かりがひとつもない。・・・Damn it !・・・)

(バイデンの車を見失ったジャックは、取り敢えず、ミッチェル・マコーネルがいたフォーシーズンズホテルに向かう・・・。10分もかからずに3人を乗せたHI-ACEはホテルに着いた・・・。クロエが逆探知で部屋番号まで突き止めていたので、ジャックは、デリバリーを頼まれた振りをする。・・・1004号室にピザを届けに来たんだが、このまま上がっていいかな・・・フロントは部屋の状況を確認して言った。「すでにその部屋のお客さまは、チェックアウトしてますよ」。・・・Damn it・・・ジャック・バウワーは、トニー・アルメイダをホテルに残して、ミッチェル・マコーネルの追跡を任せ、クロエと2人でHI-ACEに乗り込んだ。・・・なぜ、わかった。なぜ、待ち伏せられた。・・・助手席に座ったクロエ・オブライエンがヒントをくれた・・・。)

ジャック、ミッチェル・マコーネルとの会話が2人の暗号だったのよ・・・。ジョー・バイデンの知人に、「フランク・ミレット」という名前の人はいなかったわ。調べてみたら、フランク・ミレットは、タイタニック号沈没事故で犠牲になった画家の名前だったの・・・。それに、待ち合わせ場所のDel Marは、タイタニック・メモリアル近くのスペイン料理のレストランだったわ。つまり、バイデンは、マコーネルに私たちの待ち合わせ場所を、あの電話の会話で知らせたのよ・・・。

(ジャック・バウワーは、大統領直通のトランシーバーを手に取り、話し始めた。・・・大統領、大変申し訳ありません。ワシントンD.C.に着いたところで、バイデンの一味に待ち伏せされ、ジョー・バイデンを逃がしてしまいました。・・・バイデンは、ミッチェル・マコーネルと組んでいます。マコーネルは、大統領の味方ではありません。私は、バイデンとマコーネルを確保するために行動します。・・・ハイ・・・ハイ・・・わかっています。私の活動が表面化してはいけないことは重々承知しています。表立って動くことはしません。・・・ハイ・・・ハイ・・・Copy that !・・・クロエ、俺たちはバイデンを探し出す。最近の分析結果をブリーフィングしてくれ。・・・)

――「24-Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第54話(3/22予定)」に続く。