(確かに、習近平はナショナリストの資質を備えていた。「グローバルスタンダード」や「グローバライゼーション」よりも「チャイナファースト」を目指す指導者だと言ってよい。2020年に施行した「香港国家安全法」を見れば、そのことがよく分かる。香港の独立を求めた場合、国家の分裂を図る「国家分裂罪」に当たることになった。また、共産党政権に反対すると「国家反逆罪」に相当することになった。さらにデモや抗議活動などは「テロ行為」とみなされ、徹底的に取り締まる対象になったし、外国からの支援を受けた場合、「外国結託罪」として厳しく断罪される。しかも、これらの犯罪は、香港当局が対処するのではなく、直接、中国の中央政府が取り締まるのだ。恐怖政治そのものだと言ってよい。)

(この結果、2047年までは「一国二制度(香港の自由と人権を守る)」を続けるという英国との香港返還協定は反故にされてしまった。香港の自治は有名無実化したのだ。すでに、著名な民主活動家たちは次々と逮捕されている。・・・しかし、これらの措置は、習近平にしてみれば当然のことであった。大陸の中国人民たちが仕事や観光で香港に来て、民主主義に触れてしまうと、中国本土で「民主主義」の萌芽が広がっていくからだ。それは、一党独裁が崩壊するリスクが膨張することを意味する。例えば、香港では、毎年、天安門事件が起こった6月4日に追悼式典を開催している。しかし、天安門事件の存在自体を否定している中国共産党が、そのような振る舞いを黙認できるわけがなかった。香港の自由は死んだ・・・。)

本来であれば、「チャイナファースト」の習近平と、グローバルなコングロマリットを構成する奴ら相性はそれほどよくはない・・・。しかし、習近平は、「アメリカファースト」を掲げて、中国に対して厳しい対応をしてくるトランプを排除したい。そして、民主党や共和党の「エスタブリッシュメント層」もトランプを排斥したい。さらに、グローバルなコングロマリットの経営者たちもトランプを排斥したいわけさ。つまり、中国共産党と、共和党の一部を含む民主党と、グローバルなコングロマリットは、「トランプをやっつける」という一点で強固に結びついていたんだ。これらの強力な敵を向こうに回して、4年間も戦い続けたドナルド・トランプという男の神経は、本当に並外れていると言えるだろうな。俺だったら、とっくの昔に心が折れて、自ら退いていただろうよ。・・・

こういうパワーバランスの構図が分かった上で観ると、面白いのが、ジョージ・ソロスの動きなんだよなぁ・・・。ジャックも知っているだろう。ソロス・ファンド・マネジメントの会長で、オープン・ソサエティ財団の創設者でもある、あの稀代の天才投資家のことさ。ジョージ・ソロスは、1930年にハンガリーのブダペストで生まれたユダヤ人だ。13歳のとき、ナチス・ドイツがハンガリーを軍事的に支配していたから、そこではユダヤ人のホロコーストがされていた。幼心に同胞が日々殺戮されていく恐怖を心に刻んだはずだ。14歳のときには、ナチス・ドイツ軍とソ連軍が熾烈な市街戦を展開し、その後はソ連軍が支配者になったんだが、ソ連の虐殺もひどいものだった。ソ連から見れば、ハンガリーはナチス・ドイツの仲間みたいなもんだったからな。だから、あいつは、右の統制国家も、左の統制国家も大っ嫌い・・・。根っからの自由主義者なんだ。お前の言葉で言えば、根っからの「グローバリスト」っていうことになるんだろうな。まあ、あいつのヘッジファンドは、誤解を恐れずに、単純化して言えば、誰よりも先に投資し、周りを煽り、高値で売り抜けるという手法で荒稼ぎした。1992年には、英国政府の為替介入に対抗してポンドへ空売りを行い、15億ドルとも言われる利益を稼いで、「イングランド銀行を潰した男」の異名を得たほどの奴さ。投機の対象は、韓国やタイ、インドネシア、マレーシアに広がっていく。1997年、アジア通貨危機の間、マレーシア首相マハティールが、マレーシア通貨のリンギットを下落させたとしてジョージ・ソロスを名指しで非難したってこともあったよなぁ・・・。

(ジョージ・ソロスが立ち上げたクォンタム・ファンドは、1973年からの10年間で4200%のリターンを出し、1998年には世界最大のヘッジファンドになった。この間、アメリカの株価は47%上昇しただけだったから、そのパフォーマンスの物凄さがわかる。ソロスのファンドは、40年以上の間、平均して年間20%のリターンをもたらして来た。これはヘッジファンド史上最高のパフォーマンスだと言ってよい。1973年から2013年までの40年で400億ドル以上 ―― 4兆円以上 ―― の利益を生み出したというから並外れている。ヘッジファンドマネージャーとして稼ぎ続けてきたジョージ・ソロスの富は、2015年には277億ドルに達したと言われている。・・・)

ソロスの投機対象となった国々はボロボロになって、IMF(国際通貨基金)の支援を頼るしかなくなる・・・。それで、IMFの指導に基づいて、外資に市場を開放し、自由主義経済を導入することになるんだ。IMFなんて、お前のいう「グローバリスト」の仲間たちだから、まあ、ソロスの仲間みたいなもんさ。そうなれば、IMFの支配下に入ったその国の経済は、グローバルなコングロマリットたちが望んでいる開かれた経済体制になっていく。仮にIMFの支配下になるほど悲惨な状況にならなかったとしても、経済崩壊は、間違いなく、現政権の弱体化につながる・・・。要するに、これは、新たな形の国家侵略なんだよ・・・。軍事力を使うことなく、対象国の政権を転覆させ、IMFの支配下に置き、グローバルなコングロマリットたちが望むグローバルな自由主義経済に組み入れていくことができる。冷戦が終わった後の世界は、そういう形になると読んだビル・クリントンは、ジョージ・ソロスに目を付けた。それで、外交問題評議会 (CFR) の委員にソロスを任命したのさ・・・。

要するに、2000年頃から、旧共産圏諸国において、民主化を掲げて散発した一連の政権交代は、そういう謀略の中で起こっているのさ・・・。数々の国際謀略をこなしていく中で、ジョージ・ソロスに代表される国際金融資本と、自由な市場を求める多国籍企業と、新たな国のプラットフォームになろうとするビッグテックは、時の政権の支援を受けて、CIAとともに、中欧や東欧や中央アジアにおける「カラー革命(Color Revolution)」を仕掛けていった・・・。これらの革命では、メディアで取り上げやすくし、大衆の記憶に刷り込むために、政権交代を目指す勢力が、特定の色や花を象徴として採用する。メディアともつるんでるから、もう出来レースだよな。それで、「色(カラー)の革命」と呼ばれている。2000年のセルビアにおける「ブルドーザー革命」、2003年におけるグルジアの「バラ革命」、2004年におけるウクライナの「オレンジ革命」、2005年におけるキルギスの「チューリップ革命」なんかが有名だな。いずれも不正選挙を問題視し、大群衆が街頭で抗議行動を実施し、それぞれの国の指導者の辞任や打倒したわけよ・・・。そして、これらの運動の背後には、ジョージ・ソロスがいた。独裁政権を民主化して親米化する策略だったと言っていい。

(この手の話は、ジャック・バウワーの専門領域だったので、ほぼ同じ内容をCIAの情報源からすでに聞いていた。「ブルドーザー革命」は、2000年10月に、ユーゴスラヴィア連邦共和国のスロボダン・ミロシェヴィッチ大統領を退陣させたことを皮切りになった「革命」だった。グルジアの「バラ革命」では、2003年の議会選挙の結果がきっかけとなってエドゥアルド・シェワルナゼ政権が退陣し、翌年3月に行われた議会再選挙の後にミヘイル・サアカシュヴィリが大統領に選出されることになる。ウクライナの「オレンジ革命」は、2004年の大統領選挙の決選投票を巡る争いで、その後の再決選投票で、野党の指導者であったヴィクトル・ユシチェンコが、親ロシアのヴィクトル・ヤヌコーヴィチを破った。「チューリップ革命」は、2005年のキルギス議会選挙の結果が紛争となった事件だ。これらの事件では、CIAが暗躍しており、革命側に資金を提供していたのが、ジョージ・ソロスのような国際金融資本であり、そのバックには、多国籍企業やビッグテックが控えていた。・・・)

(CIAの暗躍は、旧共産圏にとどまらない。中東諸国にも波及した。レバノンで起こった「杉の革命」もそうだ。野党指導者のラフィーク・ハリーリーが暗殺され、シリア軍がレバノンから撤退した事件だ。イラクでも、不正選挙を糺す「紫の革命」が起こった。クウェートでは、女性参政権を求める「青い革命」が2005年3月に始まり、2007年の議会選挙から投票権が付与された。チュニジアでも、2010年年末から2011年にかけて、「ジャスミン革命」が起こる。失業と困窮が国中に溢れかえる中で、野菜や果物の街頭販売をしていた青年が、当局の取り締まりに遭った。それに抗議して青年が焼身自殺したことが発端となり、全土でデモが拡大。アリー大統領がサウジアラビアに亡命するに至った。・・・いずれも、米軍は出動していない。すなわち、軍隊を伴わないCIA独自の謀略だったのだ。・・・)

そういう謀略の中で重要な役割を果たしてきたのが、ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団だったわけよ。奴のオープン・ソサエティ財団は、「世界を自由で開かれた社会にする」ための団体なんだが、実際に様々な国々を「オープン」にする策略に絡んでいるんだ。これらの国々での暴動にはソロスの財団が支援している。しかも、CIAと組んでいるんだからな。まあ、世界最強の「軍隊ならぬ軍隊」だろう・・・。民主党が媒介となって、CIAと国際金融資本を結び付けていく。さらに、多国籍企業とビッグテックを加えたコングロマリットが運命共同体として、同じ目的に向かって突き進む・・・。俺なんか駒に過ぎないのさ。

――「24-Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第52話(3/11予定)」に続く。