(敵からも、そして他の者からも、不審に見られることのないように、クルーザーはゆっくりとゆっくりとポトマック川を遡っていく。このまま何もなく進行していけば、クロエが待機しているタイタニック・メモリアルには、あと3時間ほどで着くはずだ・・・。スパイ事情の玄人であるジャックは興味を持っているはずと読んだのか、同盟国の日本の実態を講義するベテラン政治家は、興が乗り、これまでになく饒舌になってきた。・・・)

そういえば、「ミトロヒン文書」っていうのもあったなぁ。1992年に旧ソビエト連邦からイギリスに亡命した元KGB(ソ連国家保安委員会)の幹部だったワシリー・ミトロヒンが密かにソ連から持ち出した機密文書のことさ。俺たちのアメリカ合衆国の同盟国である日本に対する諜報活動も載っているんだが、笑っちゃうよな。朝日新聞などの大手新聞社を使っての日本国内の世論を誘導することは「極めて容易だった」とか書いてあるんだからよぉ。KGBが、巧みにそして長期間に亘って、日本社会党や日本共産党、外務省に対して直接的に支援してきたことが赤裸々に記されていた。日本人は、世界で最も熱心に新聞を読むから、日本社会党の機関誌で世論を喚起するよりも、主要新聞で発表する方がインパクトが大きいと考えていたので、日本の大手主要新聞への諜報活動を徹底的に行ったんだな。

俺たちとソ連陣営が冷戦をしていた最中の1970年代、KGBは日本の大手新聞社内部にも工作員を潜入させていた。暗号名「BLYUM」という朝日新聞社員、「SEMYON」という読売新聞社員、「KARLOV」という産経新聞社員、「FUDZIE」という東京新聞社員を潜り込ませていて、日本の主要メディアに数十人クラスの工作員を抱えていたというのさ。工作員となった新聞社員は、「ソ連に対する日本人の意識をポジティブにする記事」を展開していた。例えば、日本の漁船がソ連に拿捕されて人質が解放されるときなんかの報道がそうだった。明らかに不当な拿捕であった場合でも、朝日新聞は、「ソ連は、日本政府の要求に応じて、不当に拘束した日本人を解放した」と書くべきところを、「ソ連は本日、ソビエト領海違反の疑いで拘束された日本人漁師49人全員を解放する、と発表した」とポジティブに報道する。完全な嘘じゃないが、ミスリーディングな記事を書くんだ。ほとんどの新聞記者がカネで転んだらしい。一部には、ハニートラップに引っかかった奴もいたらしいがな。・・・

(日本では、こうしたスパイ事件を受けて、「スパイ防止法案(国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案)」が議員立法され、1985年に国会で討議されたが、審議未了で廃案になった。マスコミが大反対しただけでなく、死刑または無期懲という極刑を嫌う官僚たちも、公務員法で公務員の守秘義務は定められているとして、静かに抵抗し続けたからだ。このため、「スパイ天国」はしばらく継続した。ようやく2011年10月、民主党政権の野田内閣が「秘密保全法制」を提案。マスコミの猛反発はあったが、2013年の国会で「特定秘密の保護に関する法律案」が第2次安倍内閣によって提出され、同年12月に成立した。しかし、他の先進国並みの体制が整ったとは決して言えない。というのは、歴史的なしがらみで、日本社会の深いところで、共産主義的な火種が埋め込まれているからだ。・・・)

(例えば、「日本学術会議」という組織がある。これが滅茶苦茶だった。例えば、北海道大学は、2016年度、防衛省の安全保障技術研究推進制度に応募した結果、「微細な泡で船底を覆い船の航行の抵抗を減らす研究」が採択された。これは、民間船でも応用できる事実で、タンカーで原油を遠路はるばる運ばなければならない日本にとっては、極めて重要な技術と言えたが、日本学術会議が「軍事研究」と決めつけて猛批判。この圧力で、北海道大学は研究を辞退した。ロケット開発の研究が応募禁止にさせられた事例もある。日本学術会議は、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を出しており、これが、錦の御旗になっている。ところが、日本学術会議は、中国の軍拡に対しては一切批判しない。それどころか、海外から優秀な研究者を集める中国の「千人計画」に全く反対しなかった。「千人計画」とは、世界トップの科学技術強国を目指して、外国から優秀な人材を集める中国政府による人材招致プロジェクトのことである。2008年から実施されており、2018年までの10年間で7,000人が招致されている。中国軍に近い「国防7大学」で技術を教え、間接的に中国の「軍事研究」に貢献しているケースもあった。「兵器科学の最高研究機関」と呼ばれ、弾道ミサイルの誘導や軍民両用ロボットを研究している北京理工大の「ロボット研究センター」で、AIやロボット工学、ロボット製造に活用できる神経科学などを研究・指導していたというのだ。少なくとも数十人は訪中しているらしい。アメリカ合衆国は、「千人計画」について、機微な情報を盗み、輸出管理に違反したとして、監視や規制を強め、技術流出防止策を厳格化している。日米は好対照であった。・・・)

それにしても、俺たちアメリカ合衆国の同盟国として、日本っていうのはどうなのかねぇ・・・。そもそも日本という国では、戦後から、中国共産党が深く広く入り込んでいる。「日本学術会議」なんて、その典型だ。日本の学者を内外に代表する機関であるはずの組織なのに、日本共産党に牛耳られて乗っ取られているじゃねぇか。日本共産党は、の関係団体を最大限利用して候補者を立て、党員や息のかかった人物を大量に当選させてきた。日本共産党の党員らは、共産主義に対する強固な信念と使命感を持っているから、理論武装をして熱心に活動する。ちなみに、日本共産党の活動原則は、「合法活動と非合法活動を組み合わせる」という・・・。つまり、「非合法活動」を認めているんだよな。スゲーだろ。つまり、「目的は手段を正当化する」という思想なんだ。共産主義の理想を実現するためなら、如何なることを行うことも厭わない。太平洋戦争の前は、活動資金獲得のために銀行強盗を決行したし、太平洋戦争の後は、朝鮮戦争に参加し、スターリンや毛沢東の指令を受けて、俺たち米軍を攪乱するために、火焔瓶闘争や警官射殺事件など270件の騒擾事件を引き起こした・・・。戦後の日本で「戦争をした政党」は日本共産党だけだ。だから、日本共産党は、今でも「破壊活動防止法」に基づく公安機関の監視対象となっているんだ。・・・

その日本学術会議は、1950年、「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」という声明を出した。戦前、科学者が戦争に協力したことに対する反省から発案されたとされていて、一見もっともらしいんだが、日本学術会議に大きな影響を与えていた日本共産党自身は、この声明の直後に朝鮮戦争が勃発したことを受けて、武装闘争という名の「戦争」に飛び込んでいくんだから、「何を言ってんだか」って話なんだよ。でも、「軍事研究をさせない」というこの声明は、その後2回繰り返されて今日に至っているという・・・。しかし、日本を巡る防衛環境は激変しちまった。中国は、中距離弾道ミサイル2000基を日本に向けているんだぜ。しかも、尖閣諸島を奪取しようと画策している。中国からは、俺に対しても、ずっと前から「尖閣問題に米国が介入しないでくれ」という依頼がある。普通に考えれば、日本国民の生命と財産を守るための自衛力の強化は喫緊の課題なんだが、日本学術会議はそれに大反対するんだよ。面白れえよな。日本学術会議は、日本国民を守るための防衛施設庁の研究を大学が受託するのを妨害しながら、その一方で、中国の人民解放軍の軍事研究につながる協定を中国と結んでいるんだからなぁ。本当だったら、「日本国民への裏切り」と言ってもいいんだが、そういう議論は、日本では極めて少数派だ。中国のスパイ活動は、日本の学界や政界やマスコミの深い部分にまで浸透していると見たほうがいい。

(日本学術会議の歴史を遡ると「サンフランシスコ講和条約」に辿り着く。日本は1951年にこの条約を調印して、第2次世界大戦における戦争状態と、連合軍による占領を終結させ、国家としての主権を回復した。ところが、米ソの冷戦は1945年から始まっていたため、日本は条約を結ぶ際に、ソ連を代表とする“東側諸国”も含めた全面講和を目指すべきか、アメリカなどの“西側諸国”と単独講和に踏み切るかで、世論は真っ二つに割れていた。日本学術会議は、「単独講和に反対する決議」を採択。単独講和を決断していた当時の吉田茂首相は激怒し、日本学術会議の会員だった南原繁・東大総長を名指しで「曲学阿世の徒」と罵ったという。その後も執拗に、日本学術会議は政府の方針に異議を唱え続ける。戦後の大きな政治問題ではことごとく政府に反対を打ち出してきたと言ってよい。日本学術会議は1949年の発足から1984年まで、選挙によって会員を選んでいた。日本共産党はこれに目をつけ、シンパや党員の学者に有権者登録を積極的に行わせ、関係の深い日本科学者会議のメンバーを立候補させていた。組織票の力は強く、候補者は当選が相次いだ。会員の40%近くが日本共産党系と言ってよい。こうなると、会議の論調を左傾化させることは、決して難しくはない。左派が団結して自分たちの主張を声高にゴリ押しすると、普通の会員は嫌がって議論を放棄してしまうからだ。議論をまとめる責任者も日本人だから、波風を立てずに、つつがなく議論をまとめ上げようとするから、声が大きな左派の方が勝ってしまう。ただし、そういう事情は、ポリティカル・コレクトネスが幅を利かせるアメリカでも同じであった。・・・)

ジャック、トランプ大統領と打ち合わせた事項について、ミッチェル・マコーネルに確認しておきたいから、お前かトニーの携帯をちょっと貸してくれないか? 俺の携帯はGPSでトラッキングされている可能性があるから、お前の指示に従って捨ててしまったからな・・・。中国に対する工作の状況も知りたいし、その後、俺がサポートできることもある。・・・

――「24-Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第48話(2/25予定)」に続く。