(波止場に停泊しているクルーザーの操縦席には、すでにトニー・アルメイダが乗り込んでいた。ジャック・バウワーは、長旅を終えたレクサスを、クルーザーの近くに停車すると、上空にいるワトニックに敬礼した後、バイデンと2人で船室に乗り込んだ。総トン数5トン級のヤマハPC-31を改造した小型のクルーザーは、室内に入ると足場がないほどに、武器弾薬類で敷き詰められていたが、船首の部分に設けられている寝室には、2人が寝るスペースが確保されていた。昨日の昼からほとんど寝ていないジャックとバイデンは、着の身着のままベッドの上に転がり込んだが、バイデンは気が昂っているのか、なかなか寝付くことができず、ブツブツと話を続けていた。・・・)

CNNと同様に、トランプ陣営とロシア政府の共謀を証明しようと躍起になっていたのがニューヨークタイムズだったっけなぁ。プロジェクト・ヴェリタスは、ニューヨークタイムズにも潜入した。2017年10月に、立て続けに動画を公開してたよ。編集デスクを務めていたデス・シューは、隠し撮りされた動画の中で、トランプのことを「何も分かっていない愚か者」と罵倒し、「主要な目的は購読者を獲得すること。そのためにできることは何でもするわ」と豪語してたなぁ。また、同社でITコンサルタントを20年務めているトッド・ゴードンは、「ニューヨークタイムズの記者たちは不公平だ。完全に偏向している。彼らは全員、疫病のごとくトランプを嫌っていて、平気で偏向した記事を書きまくる」って言ってた。ワシントンポストも同類さ。同じ年の11月に、プロジェクト・ヴェリタスが動画を公開したんだが、安全保障の記事を担当していたアダム・エンタスは、「私たちの調査では、トランプ氏がロシアとの共謀で有罪になると言えない。私が知る限り、まだ証拠は1つもない」と発言していたくせに、紙面ではめちゃくちゃ叩いていた。プロダクト・ディレクターのジョーイ・マーバーガーに至っては、「もしトランプが明日いなくなったら、ワシントンポストの購読者は約半分になるだろう」とか言ってやがったよ。・・・

要するに、メディアでは「真実か否か」なんて関係ねぇんだ。そういう虚構の世界をバラク・オバマはアメリカ社会に創り上げた。そこでは、報道されたことが「事実」なのさ。それが、「ポリティカル・コレクトネス」の世界観なのさ。「ポリティカル・コレクトネス」において、「こうあるべき」と定められた命題があるとすれば、その命題以外の事実は、弾圧し、排斥し、消滅させるべき対象となる。そして、「ポリティカル・コレクトネス」が定める命題に当てはまる事象だけを取り上げて報道すれば、世界は「ポリティカル・コレクトネス」が予定している世界に、予定調和的に近付いていく・・・。しっかしなぁ・・・これは、まさに社会主義って奴じゃねぇのかい。まるで共産主義の国家観だよなぁ・・・。こんなのは、民主主義じゃねぇ。民主主義では、国民が政治家を選出する。そして、その国民は、メディアの報道を見て、どの候補者に政治を任せたいかを決める。だから、メディアの報道が偏ったら、国民の考えも偏るから、正しい判断ができなくなるじゃねぇか。正しいリーダーを選出することができなくなっちまうんだよ・・・。メディアが「社会的公器」って言われていたのは、このためだったはずなんだけどな・・・。情けないことに、その役目を自ら放棄しやがった。民主主義には、メディアの公平性が不可欠だったのに、それがなくなっちまったんだ。プロジェクト・ヴェリタスを率いるジェームズ・オキーフの野郎がいみじくも言ってやがったよ・・・。「メディアが、公に明かすことなく非常にバイアスのかかった見方を持っていたら、民主主義は死んでしまう」ってな。・・・

(アメリカにおける「ポリティカル・コレクトネス」を求める運動は、詰まるところ、結論が正しければ、いかなる手段を用いても良い、という短絡的な思想に染まっていった。「民主党が勝つ」ことが「政治的に正しい(politically collect)」という命題が成り立つのであれば、如何なる手段を用いても、「民主党が勝つべき」という結論になる。そのためには、「不正投票」を行うことが「善」になる。「民主党が勝つ」という「大義」の前には、「不正投票」という「小悪」など批判すべき対象にはならず、かえって称賛される対象となってしまう。今回の「不正投票」が大規模かつ組織的に行われた一方で、お粗末とも言えるようなインチキ行為で溢れていたのは、その「不正」を行うことを「悪」と思わず、「大義のための聖戦」だと思い込んでいたからに違いない。そうでなければ、あれだけ正々堂々とスーツケースを持ち込んで、同じ投票用紙を何回も集計するような大胆な「不正投票」はできなかっただろうし、常人の常識を超える偽の投票用紙の混入もなかっだろう。何と言っても、今回の大統領選におけるバイデンとトランプの得票は、選挙人の総数を超えているのだ・・・。すべては、「大義」のための「聖戦」あるいは「善行」だったのだ・・・。ジャック・バウワーは、目を閉じ、わずかな時間であっても睡眠をとるように心掛けたが、バイデンは、自分に言い聞かせるように、オバマやCNNの「悪業」をつぶやき続けていた。・・・)

バラク・オバマがやっていることは、民主主義の破壊なんだ。あいつのせいで、俺たちのアメリカのメディアは腐り切っちまった。実際、そのことを分かっていたメディアの人間も少なくない。あのCNNですら、内部には良心的なジャーナリストはいた。あまりにも左寄りの番組を制作させられることに対する不満はあったし、センセーションを引き起こすために事実を大袈裟に誇張することに対する後悔もあった。「トランプ大統領は悪い人だ」と印象付ける番組制作に落胆している奴だって多かった。CNNの現場監督として25年間報道界で飯を食ってきたパトリック・デイビスは、「ジャーナリストは、みな机上では『中立』が仕事であることを学ぶが、CNNはこれに従っていない」と認めていたし、「ザッカ―社長は、どうかしている」と嘆いていた。テクニカルオペレーションスーパーバイザーのアジア・ジェイコブスは、「CNNはかつて『本当に率直なニュース番組』を作っており、オピニオンや議論の時間に多くを割いていなかったが、今は最初から終わりまでトランプだ」と辟易していたよ。でも、そのうちに良心が麻痺してしまい、事実を捻じ曲げることも平気になった。有名だったのは、ハリケーン「ドリアン」の話だ。ハリケーンの進路は北寄りになったので、フロリダでの被害は少なかった。だから、地元の人々は安堵していたんだが、CNNの放送では、「まるで大災害が発生してこの世が終わるかもしれない」ような報道になっちまっていたよ・・・。もはやメディアで正しい情報は得られない。俺も、俺の孫たちに対しては、「ニュースは信じるな」って教えている・・・。

まあ、俺も言えた義理じゃねぇが、バラク・オバマが率いたころから、民主党では「不正選挙」が当たり前になっていた。これも、プロジェクト・ヴェリタスに暴露されちまったんだが、ニューヨーク市の選挙管理委員会の委員長を務めているアラン・シュルキンが、「ここでは、不正投票が蔓延している。バスに乗って、投票権のない奴らが投票所にやって来る」って認めちまったんだよ。あんときゃ大騒ぎになって大変だったよ。イスラム教信者が被るブルカ(女性用の顔を隠すヴェール)を使えば、何度でも投票できるとか、他人になりかわることができるとかさ、それを隠しカメラの前で言っちまったんだよ。それで、実際、プロジェクト・ヴェリタスの奴らが、「不正投票」できるかどうかを、実際の選挙で試した・・・。そして、隠しカメラで撮りながら、容易く「不正投票」ができることを証明しやがった。イスラム教信者であると偽れば、顔をチェックされることはない。そもそもIDだっていい加減だ。聖域都市(Sanctuary City)―― 不法移民に対しても寛容な基本的人権を重視する都市 ―― だと言えば、格好は良いが、要するに、そこは「民主党が人工的に創り上げた票田」なのさ。そこでは、不法滞在者というだけでは逮捕や強制送還されることはない。もっと言えば、聖域都市において、警察官は、在留カードの提示を求めることができない。だから、不法移民かどうかをチェックできない仕組みになっている。そこでは、不法入国して在住しているにもかかわらず、市民権がある市民とほぼ同様の公共サービスを受けることができるのさ。投票権もな・・・。もちろん、法令上、不法移民には投票権はない。しかし、聖域都市では、投票において、不法移民かどうかをチェックしないし、IDすらもチェックしない。だから、本来選挙権を持たないグリーンカードの奴らや不法移民も投票できる。だから、民主党が強いのさ・・・。それがよぉ、ニューヨークやロサンゼルスだけじゃねぇ、アメリカ国内に300もあるんだぜ。元からぐちゃぐちゃなのさ・・・。

(寝付くことができないジョー・バイデンは、しばらくつぶやき続けていたが、その声のボリュームは徐々に小さくなり、次いで寝言のようになり、ついには沈黙が訪れた。1日半近くもの時間一睡もしていなかった身体は無性に睡眠を求めており、いつの間にか2人の意識は忽然と機能を停止していた・・・。)

――「24-Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第42話(2/15予定)」に続く。