2021.1.16(土) トランプの忠臣、上院8人衆が断頭台に
ーー 筆頭はクルーズ氏、地元紙は「テキサスの恥、即刻辞任を」と

高濱 賛(Tato Takahama 米国在住のジャーナリスト)

1941年生まれ、65年米カリフォルニア大学バークレー校卒業(国際関係論、ジャーナリズム専攻)。67年読売新聞入社。ワシントン特派員、総理官邸キャップ、政治部デスクを経て、同社シンクタンク・調査研究本部主任研究員。1995年からカリフォルニア大学ジャーナリズム大学院客員教授、1997年同上級研究員。1998年パシフィック・リサーチ・インスティテュート上級研究員、1999年同所長。

ドナルド・トランプ米大統領は1月13日夜(日本時間14日午前)、「米議会乱入を煽動した」として下院本会議で弾劾訴追された。米史上初となる任期中2度目の弾劾訴追だ。下院は起訴状に相当する弾劾決議案を232対197で可決した。共和党議員の中には「弾劾に賛成したら殺すぞ」といった脅迫電話を受けた議員もいるが、10人がトランプ弾劾に賛成票を投じた。下院の採決を受けて、上院はトランプ氏が大統領を退任する20日以降、弾劾是非の判断を下す。出席議員の3分の2以上の賛成で有罪が決まれば、これを受けて2回目の投票が行われる。それで賛成票が過半数となれば、トランプ氏は今後一切の選挙に立候補する資格を剥奪される。

2019年12月の「ウクライナ疑惑」では、共和党は「トランプ弁護」で一枚岩だった。しかし、今回は上院でも弾劾に賛成する共和党議員がかなり出ると予想されている。上院議員が全員出席した場合、有罪には共和党議員17人の賛成票が必要だ。現在トランプ弾劾に前向きな姿勢を見せている共和党議員は、リサ・マコウスキー(ワシントン州選出)、ベン・サッシ(ネブラスカ州選出)、パット・トゥメイ(ペンシルベニア州州選出)、ミット・ロムニー(ユタ州選出)の4人。マコネル共和党上院院内総務は「トランプ氏は弾劾に当たる罪を犯した」という認識を示し、弾劾賛成に回りそうな議員にやめるよう説得はしないと明言している。同氏に対するトランプ氏の最近の罵詈雑言に完全に切れたのだろう。同氏は、「(弾劾の動きは)喜ばしい」とまで発言、トランプ以後の共和党からトランプ色が一掃されるのを望んでいるかのような口ぶりだ。

マコネル氏に近い情報通は上院による弾劾否決以後を見据えてこう述べている。「弾劾判断が否決されてもトランプ氏の受けるダメージは大きい」「トランプ氏は真剣に2024年大統領選への再出馬を考えていた。上院が公式には選挙立候補資格を剥奪しなくても、一般有権者が同氏の政治活動を許すわけがない」「トランプ支持の暴徒がやったことはそれだけ米国民にショックを与えた」「議事堂への乱入だけならまだしも、警備にあたる警官をホッケーのステックや旗の棒で殴りつけている映像を見た人はいくら保守派でも見て見ぬふりはできないはず」「そうした行動を煽動し、弾劾訴追されても『ばかげている。激しい怒りを招き、とてつもない危険を国家に与える』と言っているトランプという人間を支持するほど、米国民は民主主義とは何かを知らないはずもない」「ここは共産党独裁の中国ではないからね」

辞任・弾劾要求は何もトランプ氏だけに向けられているわけではない。議会乱入事件後の世論調査では米国民の56%がトランプ大統領は即刻辞めるべきだと回答、無党派層では辞任要求は58%に上っている。議会乱入事件以後に行われた1月6日のジョー・バイデン氏の当選確定を追認する投票で、反対票を投じたトランプ支持派の8人の上院議員にも辞任要求の矛先が向いている。

最も激しく辞任を迫られているのが、テッド・クルーズ上院議員(51=テキサス州選出)。2016年大統領選予備選に出馬し、トランプ氏と激しい指名争いを演じた大物議員だ。地元テキサス州の最有力紙「ヒューストン・クロニクル」は1月13日の社説で「あなたは『テキサスの恥』、即辞任せよ」と主張した。「クルーズ議員は自分が何をしているのか、どんなリスクを冒しているのかを百も承知で、われわれ選挙民の投じた票が不正であるかのような偽情報をまき散らし、挙句の果て、バイデン氏の当選認証に反対した。シニカルなギャンブル*1としか言いようがない」「もしクルーズ氏がこうした行為を取らなければ、これらテロリストどもは議会乱入・破壊・殺人行為はしなかっただろう」「クルーズ議員よ、あなたはこの恐るべき言動の責任を取って即刻、上院議員を辞めなさい」クルーズ氏の地元では辞任要求する集会が連日のように開かれている。「将来の大統領候補は今や米民主主義の敵」になってしまった感すらする。

*1=シニカルなギャンブルとは、共和党内のトランプ支持派をこっそり頂戴して2024年、2028年の大統領候補指名争いを有利にしようとする戦略を指している。

上下両院議員、特に共和党議員にとっては財界からの政治献金は選挙の際には命綱だ。大企業の経営最高責任者(CEO)の間からは、大統領選の最終結果に疑義を唱える議員たちへの政治献金は今後見合わすべきだという声が上がっている。議会乱入事件後、イエール大学経営大学院のジェフリン・ソネンフェルド教授が主宰する大企業トップ経営者との勉強会が開かれた。出席したCEOは異口同音にこう発言したという。「選挙人による選挙結果認証に横やりを入れ、トランプ支持派を煽動し暴徒化させた上下両院議員の行動は許しがたく、今後これら議員たちの対する政治献金は出すべきではない」憤りは、CEOたちが将来の共和党大統領候補として育ててきたクルーズ氏とジョシュ・ホーリー氏に向けられたという。

政治献金拒否発言は個人的で非公式なものだが、イエール大学経営大学院関係者は共和党政治家の「政治活動委員会(PAC)」や「スーパーPAC」への選挙資金停止が実際に始まると予想している。怒り心頭に発しているCEOの中には、2024年の中間選挙ではこれら議員の予備選には対抗馬を立てて追い落とすと息まくものもいたという。特にホーリー氏については一部CEOからこんな辛辣な発言もあったようだ。「まだジュニア・セネター(当選1回議員)で、足元もおぼつかぬのに誰にそそのかされたのか知らないが、度を越している」「イエールの法科大学院出の法務博士だというのに米国憲法に明記されている上院議員の責務も学んでいないとは最低だ。とんだ先物買いをしたものだ」

まさに「Money in politics is a very powerful force. So is withholding is.」(お金は政治では非常にパワフルな戦力だ。そのお金を保留することも同じくパワフルな戦力だ)かつて田中角栄氏は「政治は数なり。数(を集めるの)はカネなり」と言ったといわれているが、それは米政界でも同じなのだ(むろん使い方は異なるが・・・)。

クルーズ氏やホーリー氏がアイビーリーグ卒だということでそのショック波はハーバードやイエールにも及んでいる。「ハーバードやイエールの顔に泥を塗った」というわけだ。ハーバードやイエールの法科大学院卒業生有志はそれぞれの法科大学院院長に非難声明を出すよう陳情。一方、クルーズ氏が学部卒業しているプリンストン大学の同級生約200人は、クリストファー・アイズグルバー学長にクルーズ氏の言動を糾弾するステートメントを出すよう陳情書を提出した。同学長はクルーズ氏を名指しこそしなかったが、「米民主主義には1月6日の出来事を是認するような場はない。リーダー一人ひとりはこうした事態に反対する責務があり、こうしたことを煽動したり、そそのかしてはならない」とコメントしている。イエール大学法科大学院在学生有志は1月6日、クルーズ、ホーリー両氏の弁護士資格剥奪をテキサス、ミズーリ両州の弁護士会に申し入れた。ちなみに、最高裁は2001年、モニカ・ルインスキー事件で弾劾訴追を受けたビル・クリントン大統領のアーカンソー州での弁護士資格の剥奪を決めている(クリントン氏はその前に資格を返上)。

なおホーリー氏はサイモン・シュースター出版社と本の出版契約を結んでいたが、同社から今回の件で契約を一方的に破棄されてしまった。また地元ミズーリ州の有力紙2紙は、同氏の即時辞職を社説で促した。クルーズ、ホーリー氏以外に選挙人による当選者確定手続きに反対票を投じた上院議員5人は以下の通り。学歴をみると、すべて地方大学出だ。

ロジャー・マーシャル(60=カンザス州選出)カンザス州立大卒。
トミー・タベルヴィル(66=アラバマ州選出)サザン・アーカンソー大卒。
シンディ・ハイド・スミス(61=ミシシッピ州選出)サザン・ミシシッピ大卒。
ジョン・ケネディ(70=ルイジアナ州選出)バージニア大法科大学院卒。
リック・スコット(68=フロリダ州選出)サザン・メソジスト大法科大学院卒。
シンシア・ルミス(66=ワイオミング州選出)ワイオミング大法科大学院卒。

クルーズ、ホーリー両氏以外にも3人の法務博士がいるが、全米レベルではまだ2人ほど標的にはされていない。スコット氏は、新会期で上院共和党議員の政治献金調達委員会(National Republican Senatorial Committee)委員長という重要ポストに就任することが決まっていたが、辞任すべきだという声が党内からも出始めている。その他の議員たちに対しても、それぞれの地元ではSNSに辞任要求の書き込みが増えている。特に2020年の選挙で初当選したマーシャル、タベルヴィル両氏は厳しい立場に立たされている。大学のフットボール・コーチからその知名度を買われて出馬し、当選したタベルヴィル議員の側近の一人は地元メディアにこうつぶやいている。「当選して喜んでいたと思ったのもつかの間、ジョージアで(州補選で共和党候補が負けた)上院は民主党天下。その直後に米議会乱入事件が起こり、タベルヴィル議員は断頭台に引きずり出されたようなもの。天国から一気に地獄だね」

「敗軍の将」は、最後までついてきた「8人衆」のことなどどうでもいいかのように、「ゴーストタウン化した白亜の館」(ワシントン・ポストのホワイトハウス詰め記者)で残り4日間を過ごす。