(3人を乗せたヤマハPC-31は、ほとんど音もさせずに、ゆっくりとポトマック川をワシントンDCへと向かっていく。クリントン財団も、中国共産党も、同伴者であるジョー・バイデンの奪還もしくは抹殺のために、最大限の防衛網を敷いているはずであった。ポトマック川の北岸に位置し、南西をバージニア州に、その他の方角をメリーランド州に接しているワシントンDC ―― コロンビア特別区(District of Columbia)―― は、アメリカ合衆国憲法1条により、各州とは別に、恒久的な首都としての役割を果たすため、連邦の管轄する区域が与えられている。ホワイトハウス、連邦議会、連邦最高裁判所が所在するアメリカ合衆国の首都は長年民主党の牙城であり、警察は「敵」と見たほうがよかった。また、FBIなどの連邦機関もバラク・オバマの支配下にあることを思えば、味方は誰一人いないと認識して、予期せぬ事態に対応すべきでもあった。)

でもよぉ、大統領がその気になれば、なんだってできる。あのエイブラハム・リンカーンだって、南北戦争のときは、「戒厳令」を敷いて、リンカーン大統領に反対する無数の新聞社に閉鎖を命じてそのオーナーや編集者を逮捕したし、リンカーンに反対する議員も逮捕した。メリーランド州だけでも数千人以上が逮捕されたとも言われている。最高裁裁判長のロジャー・テイニーが「リンカーンは合衆国憲法に違反した」と断じたとき、リンカーンはテイニーを逮捕するように命じたもんさ。いまでは、このリンカーンによる強権の発動がアメリカ合衆国を危機から救い出すための責任ある行動であったことを否定する奴はいないだろう。あのバラク・オバマでさえ、歴代最高の大統領として、エイブラハム・リンカーンを挙げている。まあ、俺は敵方だったわけだが、今回における国内外のリベラル勢力の脅威は、南北戦争のときと比べて、「深刻じゃない」とは言い切れない。資金も潤沢で訓練されているANTIFAやBLMが暴力をふるうのを、民主党系の政治家や役人が協力していて、警察だって黙認している。ハッキリ言って、トランプ政権が誕生して以来、トランプを失脚させるためのクーデターが4年にわたって続けられきたと言っていいだろう・・・。まあ、俺は、そんなことを言える立場じゃねぇがな・・・。

しかも、フリン元将軍やパウエル弁護士やリンウッド弁護士が主張している「戒厳令」は、極めて限定的な戒厳令じゃねぇか・・・。彼らを支援している「We the People Convention」という団体は、ワシントンタイムズに全面広告を出して訴えた。トランプ大統領に対して、立法府や司法機関、議会などが憲法を守ることができなければ、選挙をやり直し、国民の選挙権を守るために「戒厳令を宣言するよう」求めた。再投票を行う場合、電子投票ではなく、紙製の投票用紙だけを使うよう提案した。また、投票者について、登録した有権者のみに限定するよう求めた。集計の際、選挙の公平性を保つため、民主党と共和党の監視員の下で、本人の写真付き身分証明書を持つ有権者が投じた票を手作業で数えていくなどと提言した。こんなのリンカーンがやった「戒厳令」に比べれば、子供のままごとみたいなもんだ。

しかし、トランプは慎重だねぇ。ものすごい忍耐力だと言っていい。しびれを切らしたリンウッド弁護士は、例の大統領令を発動して、俺を筆頭に、バラク・オバマ、ヒラリー・クリントン、ナンシー・ペロシ、チャック・シューマー、前職・現職のCIA長官とFBI長官など、不正を知りながら加担したすべての人々を法的手続なしで「国家反逆罪」として捕まえて軍事裁判にかけろ、とヒートアップしたがなぁ。実際、トランプは、今年5月22日に、「国家緊急状態」を1年延長しているから、来年5月19日までは「戦争状態」だと言っても間違いではない。この状況の下であれば、大統領には人身保護令も中止することができる、というリンウッドの主張にもかなりの説得性はある。正直言って、俺はずーっとビビっていた。

(確かに、トランプ大統領の忍耐力は、常人の理解を超えて驚異的なものと言ってよかった。権力者であれば、その権力を維持し、誇示するためにも、その権力を振るいたくなるものだ。また、主流メディアによって4年以上垂れ流されてきた「短慮で短気なトランプ」という報道が真に正しいのであれば、とっくの昔に、「戒厳令」あるいは「大統領令」が発動されていても不思議ではなかった。いかに、バラク・オバマのスパイ・ネットワークがあるとはいえ、その気になれば、やりようはあるはずだった。オバマのスパイ・ネットワークやSESは、その存在が知られていない状態であれば、最大限の力を発揮できる。しかし、その存在にトランプが気付いた瞬間に、その脅威は半減するものだ。・・・)

それになぁ、トランプには、「反叛乱法」っていう手もある。合衆国憲法では、各州内の秩序を維持する権限は通常、州知事にある。この原則は「民警団法」と呼ばれる法律に反映されているんだがな。この法律は、一般論として、連邦軍が国内法の執行に関与するのを禁じている。ただ、反叛乱法は、この原則の例外を定めているんだ。反叛乱法は、米国の法律の正常な執行を阻む「内乱」を鎮圧するために、大統領が連邦軍を派遣することを認めているんだ。そして「反叛乱法」は、大統領が州の状況について連邦法の執行が不可能と判断した場合や、市民の権利が脅かされているとみなした場合、州知事の承認は不要だと定めている。1807年に制定されたこの法律は、大統領に対し、「インディアンの敵対的襲撃」への防御として、国民軍の出動命令を認めるものだった。その後、国内の騒乱対応や市民権を守る目的でも連邦軍を活用できるように権限が拡大された経緯がある。

今年6月に、BLMが暴動を起こして治安が乱れたときがあったじゃないか・・・。そのとき、トランプは「市や州が必要な行動を取るのを拒否するなら、米連邦軍を出動させることになる」と発言している。つまり、あいつは、「反叛乱法」の存在とその行使権限を十分に理解したうえで、その行使を止めているんだ。6月に反対したエスパー国防長官もクビにした。やろうと思えば、すぐにでもできるはずだ・・・。でも、あいつは踏みとどまっている。巷では「習近平率いる中国共産党があいつの暗殺を命じた」という噂が流れているというのに、焦って強権を行使するという感じもない。大統領が決定すれば、反叛乱法に基づいて、連邦軍を動かすことができる。州知事の支援も必要ない。大統領が決めれば、動かせるのに・・・だ。歴史を見れば、反叛乱法は何十回と発動されている。直近30年ほどの間にはないものの、実際に発動されている。最後に使われたのは1992年のロサンゼルス暴動のときさ。確かジョージ・ブッシュ大統領が使った。州知事が反対していても、発動された前例もある。あれは、公民権運動時代の1950~1960年代だったかなぁ。要するに、トランプがやる気になればできるし、そのことを奴は十分に知っている。それなのに、使っていない。

(ジョー・バイデンが指摘した点は、バウワーも引っかかっていた点だった。悪党をやっつけるのであれば、「戒厳令」でも、「大統領令」でも、「反叛乱法」でも、なんでもいい。とにかく強権を集中して、一網打尽にして、敵の戦力を叩くべきだ。遅攻ではなく拙速を尊ぶべきだ。ドナルド・トランプという男は、事に臨んで、ビビるような男ではない。やるときはやりきる男だ。臆病者ではない。しかし、この天下分け目の決戦において、最終兵器を持ちながら、その発動を抑えつつ、情勢を見守り続けている。ジャックが大統領であれば、とっくの昔に「戒厳令」を発動していただろう。少なくとも、「大統領令」を発効させて、ドミニオンの投票集計機を差し押さえて、主要な容疑者を拘束していたはずだ。その規模や首謀者はともかくとして、「不法投票」があったことは明らかな事実である。そして、この天下分け目の決戦に敗れれば、それこそ、ロシアゲート並みに捏造した事件で、ドナルド・トランプは葬り去られるはずだ。否、トランプだけでなく、メラニアや愛する家族も社会的に抹殺されてしまうだろう。そのリスクは決して小さくない。フリン中将が経験した冤罪事件を観れば明らかだ。それが分からないほど、痴呆の訳でもない。・・・ジャック・バウワーには、トランプ大統領の胸の内がわからなかった。)

確かに、元来、アメリカ合衆国は、建国以来、軍隊は主として対外的な脅威に対処し、国内の治安維持等は民警団等が対応するという考え方を伝統的に持っている・・・。建国直後から、大統領は、独立戦争やテキサス州の編入を巡るメキシコとの紛争、そして南北戦争などにおいて、軍隊を派遣した。その反省を経て、1878 年に「民警団法」(PosseComitatus Act)を制定し、軍隊の国内出動を明示的に禁じたという経緯がある。でもなぁ・・・・・・なんで使わねぇんだろう。・・・それにしても、米国は、世界最強と謳われる連邦軍を保有しているほかに、州毎に「州兵」(National Guard)と呼ばれる軍隊を有する入り組んだ事情を有している。州兵は、基本的に州知事の指揮下で、災害対応や治安維持にかかる活動に従事するんだが、その母体は、建国以前から存在した「民兵」なんだよなぁ。自警団っていうか。ただ、いまでは、昔の「民兵」っていうのに近いのは、民主党にとってのANTIFAやトランプにとってのプラウドボーイズっていうことになるのかもしれねぇがな・・・。

――「24-Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第45話(1/12予定)」に続く。