(心地よい気分で眠りについていた2人の頭上から声が響いた。「起きろ!」・・・2~3時間は眠っただろうか? 彫りの深いトニー・アルメイダの顔が近くにある。自動運転モードに切り替わったクルーザーは、ゆっくりとポトマック川を上流に向かっている途上だ・・・。「敵かどうかはわからんが、妙な動きをしている船舶が後をつけている」という低い声に、ジャック・バウワーの意識は戦闘モードに変わった。跳び起きたジャックは、トニーから双眼鏡を取り上げて、船室から後方を観察する。確かに、3人を乗せたクルーザーの後ろにぴったりとついてくる一隻のボートがいる。夜が深く更けているので、舟の種類はわからないが、2人の影が見える・・・。1台のコブラは仕留め損なったが、プロペラ音は聞こえない。水路で行くことが読まれて素早く対応したのか、それとも、新手の敵なのか・・・。ジャックが双眼鏡を覗き込みながら、思案を巡らせている頃、トニーから近況のフィードバックを詳細に聞いていたバイデンは、若干興奮しながら、ジャックに話しかけた。)

オイ、ジャック! ミッチが動いたぞ! 中国の知人に連絡して、俺が連絡係に渡していたUSBを入手したのさ。そこに記録してあった中国共産党党員195万人の名簿を漏洩させた。これで、習近平は大騒ぎさ。あいつも考えたもんだな。暗号化されたチャットアプリ「テレグラム」にリストを流出させやがった。そのリストは、単に氏名を載せているだけじゃねぇ。、生年月日、身分証番号、国籍、党内の役職などが詳細に記録されている。中には、住所や電話番号まで書いてあるのもある。それに加えて、習近平が指揮している組織に関する情報も入れてある。俺自身が調べた情報だから間違いねぇ。この情報は、中国国内の政敵にとっては垂涎の的さ。自身の組織に入り込んでいるスパイを炙り出すことができるからな。習近平にとって、相当のダメージになるはずだ。しかも、国際情勢が厳しくなる。新型コロナウィルスの流行を隠蔽し、香港、台湾、新疆、インド、南シナ海など多くの問題で間違った判断を下し、米中関係は最悪になっている。中国共産党には、本当の意味で、習近平を守る奴などいねぇ。共産党の組織ってぇのは「弱肉強食」なんだよ。利益関係でくっついているだけだから、不利な環境になっても、習近平と一緒に最後まで戦う奴なんていやしねぇ。これで結構、あいつの組織はガタつくと思うぜ・・・。

すでに、英国のメール・オン・サンデーは、中国共産党が上海の英国領事館、大手銀行、製薬会社ファイザー、航空大手ボーイングなどに浸透していると報じやがった。メール・オン・サンデーは、195万人の中国共産党党員が7万9000以上の支部に配備されていて、全員が入党時に「党の秘密を守り、党に忠誠を誓い、共産主義のために戦い、決して党を裏切らない」との宣誓をしていると書いたそうだ。英国セントアンドリュース大学で学び、英国領事館をはじめとする上海の中国領事館に勤務した経験を持つ中国共産党党員がいたことも記事に明記された。その領事館の党員の席は上海のMI6のスタッフの近くにあったというから、英国も大騒ぎさ。中国共産党に忠誠を誓った中国の学者が英国の著名大学に入学して、航空宇宙工学や化学など、かなりデリケートな分野の研究に携わっていたことも明らかになった。エアバス、ボーイング、ロールスロイスなどの防衛産業系企業は、中国共産党党員を何百人も雇用しているし、2016年には、英国のHSBCとスタンダードチャータード銀行の19支店のスタッフの中に、600人以上の中国共産党党員がいたことや、新型コロナウィルスのワクチンの開発に携わった製薬大手のファイザーとアステリコムには、123人の中国共産党党員が送り込まれているんだ。これで、国際的には中国包囲網が敷かれるし、中国国内では江沢民が習近平の失脚を狙う素地が整うはずだ・・・。

(人的なネットワークを世界中に張り巡らせているジャック・バウワーは、中国の状況にも精通しており、習近平の切り崩しによって、江沢民派がかなり弱体化していることを熟知していたので、大きな期待をかけているわけではなかったが、現時点の米国にとって、習近平の力が多少なりとも削がれることは、プラスでありこそすれマイナスはない。仮に江沢民派が、習近平に負けたところで、中国国内の内部闘争で習近平サイドにダメージを与えることができればそれでいい。力の均衡が崩れれば、習近平派でも、江沢民派でもない、独立派の党派が台頭してくる可能性もある。一部ではあるが、中国には、現在の共産党独裁体制を問題視している勢力もいて、彼らは、共産党の解体を考えているからだ。もし、トランプがこの危機を乗り切って、次の4年間もアメリカ合衆国のリーダーであり続けることができたならば、これらの独立派と共闘することにより、習近平体制をかなり弱体化することができるだろう。中国共産党の独裁体制を終焉させることすら可能かもしれない。その意味では、トランプ大統領のこの戦いは、中国共産党が抱いている全世界の征服という野望を挫くか否かという大きな分岐点を意味してもいた。ジャックの深い思索を無視して、バイデンは、ミッチェル・マコーネルの動きを手放しで礼賛していた。)

さらにミッチは、議会でもやってくれたぜ。12月8日に開催された大統領就任式両院合同委員会で、俺を次期大統領にする決議案を否決した。これで、トランプも張れて俺の恩赦を認めてくれるだろう・・・。俺がミッチに頼んで、俺自身の大統領就任を蹴ってもらったわけだからな。しかし、結構、これはシニカルだなぁ・・・。俺自身が俺の大統領就任を蹴るんだからな・・・。ミッチは、委員会後に、「選挙プロセスに先行して、誰が大統領に就任するかを決定するのは同委員会の仕事ではない。われわれは、この世界的パンデミックの中、安全な就任式を計画しなければならないという難問に直面している。委員会のメンバーにおいては、両党の協力という伝統を遵守し、目の前の課題に集中することを望んでいる」と述べてくれた。これで、トランプとの約束を果たしたから、ミッチが、俺の恩赦を明記した正式な書面をトランプからもらってくれるはずだ。無論、民主党自身は、「共和党がこれほどまでに選挙結果を受け入れず、バイデン氏を次期大統領として認めないのは驚くべきことだ。共和党は、トランプ氏の癇癪に服している」と批判したがね・・・。

しかもミッチは、上院で、「2020年大統領選挙の不正行為」について、12月16日に公聴会を開くことを決定したぜ。大統領選挙不正に関する連邦レベルでの初の公聴会だ。ロン・ジョンソンが委員長を務める国土安全保障政府問題委員会で行われる予定だ。これも、俺からのトランプへのプレゼントさ・・・。ロン・ジョンソンだったら、「明白な違反があり、十分な審査が行われていないため、多くの米国人は2020年の大統領選挙の結果が合法だとは考えていない。疑惑を解決する唯一の方法は、十分な透明性と国民に知らせることだ。それが公聴会の目的だ」ぐらいのことは言うだろうな。実際、ジョンソンは、FOXニュースのインタビューで、「私たちはこのような質問をしなければならない。ニューヨークからフィラデルフィアに送られるトラックいっぱいの投票用紙は何か。これはどういうことですか。公聴会を開いて疑問を提起し、答えを求めなければならない。米国人は何が起きているか知るべきだから」と言っていた。下院議員のジム・ジョーダンなんかも、「5000万人のアメリカ人が今回の大統領選挙が盗まれたと考えており、有権者の3分の1を超えている。今年の大統領選挙の信頼問題も明らかにすべきだ」と主張しているらしい。

(自分を大統領にする決議が流れたことを自慢げに話すジョー・バイデンの快活な声を聞きながら、ジャック・バウワーの第六感は、何かしら合点がいかない疑惑を抱き始めた。ミッチェル・マコーネルは、老練で老獪な政治家だ。民主党の上層部とも深い付き合いがある。バイデンほどの太いパイプではないが、オバマやヒラリーとも気脈は通じている。そうでなければ、ワシントンで長い間したたかに生き残っていくことはできない。そして、ジョー・バイデンも半世紀もの歳月において、魑魅魍魎が渦巻くワシントンでサバイバルしてきた。このジジイたちの表面的な言動をどこまで信用してよいものか・・・? バイデンが、オバマやヒラリーから命を狙われていること、そして、今回の「不正投票」の責任を一人で背負うリスクに直面していることは間違いないだろう・・・。しかし、このジジイは、トランプから恩赦の書面をもらった後に、乾坤一擲の勝負を仕掛けようとしているのではないか・・・。だからこそ、ルイビルでの打ち合わせに、俺を立ち会わせなかったのでは・・・)

(ジャックの脳内に疑惑が広がる。しかし、いまは、クルーザーの後方で静かにつけてくるボートの正体を暴き、危険があるのであれば、その芽を摘み取ることが喫緊の課題であった。自動操縦に切り替えたクルーザーは、極めてゆっくりとした速度で、ポトマック川を登っていく。大西洋岸で4番目に大きいこの川は、首都ワシントンにつながる水路でもあった。この川沿いのジェファーソン記念館付近に植えられたサクラの木は、1912年に当時の東京市長であった長尾崎行雄が、日露戦争の際にアメリカ合衆国が日本に対して好意的だったことに対する謝意をこめて、荒川堤の桜並木の桜を穂木とした苗木を贈ったことに起源をもつ。そのサクラの花が咲くころに、トランプが大統領でいられるか否かは、これからのジャックの動きにかかっている・・・。ゆるゆるとクルーザーの速度が落ちたため、正体不明のボートは、少しずつではあるが、クルーザーとの距離を縮めてきていた。)

――「24-Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第43話(1/7予定)」に続く。


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