皆さん、皆さんは明らかな意思を示しました。そして、私たちに勝利をもたらしてくれました。誰もが納得できる勝利です。アメリカの国民にとっての勝利です。私たちは、アメリカ大統領選史上で最多の7400万もの票を獲得しました。今夜、この国の隅々まで、そして世界中に喜びがあふれています。それは、「明日は信頼が取り戻される」という希望を表しています。その希望が「より良き日がもたされる」のです。皆さんは、私を信頼し、信認を与えてくださった。私は、分断でなく、結束を目指す大統領になることを誓います。共和党支持の「赤い州」や民主党支持の「青い州」などというものは存在しません。あるのは一つの合衆国だけです。すべての皆さんの信頼を得られるよう、全力を尽くします。私が信じるアメリカを、「アメリカ」たらしめるものは何でしょうか。それは皆さんです。私たちの政権にとっては、皆さんがすべてなのです。私が大統領を目指したのは、「アメリカ」の魂を取り戻すためです。この国の屋台骨である中間層を立て直し、世界中で再び「アメリカ」が尊敬されるようにするためです。そしてこの地で私たちを結束させるためです。こんなにも多くの皆さんがそんな理想像に賛同して投票してくださったことは、私の一生にわたる名誉です。今こそ、その理想像を現実にするのが、私の仕事です。私たちの任務なのです。

(熱気のこもった会場で、ブルース・スプリングスティーンの「We Take Care of Our Own」が流れている。見事な白髪にキッチリと櫛を入れ、黒いマスクをした77歳の男は、大観衆が見守る、青で染め尽くされたステージに向かって走って登壇した。この日のために費やした苦悩や呻吟は、筆舌に尽くし難いものがある。しかし、「勝てば官軍」という真理は、どこでも通用する黄金のルールであった・・・。117日午後に、地元のデラウェア州ウィルミントンに登場したこの男は、まさに「人生最高のとき」を味わっていた。副大統領となるカマラ・ハリスが横でほほ笑んでいる。黒人の女性として最初の、そして、移民の娘として最初の副大統領となる彼女も、今宵の勝利に酔い痴れているようだ。・・・)

私たちを支持してくださった皆さん、私たちが立ち上げ展開した選挙運動を誇らしく思います。私たちが築いた連携が誇らしいのです。歴史上で最も広範囲な、最も多様な連携でした。民主党員、共和党員、無所属の皆さん、そして進歩派、穏健派、保守派の皆さん。若者も、お年寄りも、都市に住む皆さん、郊外の皆さん、地方で暮らす皆さん。同性愛者も、異性愛者も、トランスジェンダーの皆さんも。白人、ラテン系、アジア系、ネイティブアメリカンの皆さん。そんな連携です。とりわけ、選挙運動がどん底に陥ったとき、黒人の皆さんのコミュニティーが私のために再び立ち上がってくれました。皆さんはいつも私を支えてくれました。今度は私が皆さんを支えていきます。私はこの選挙戦でアメリカらしさを体現したいと思ってきました。実際にそうしました。これからは政権がそう見えてほしいし、そうなるよう行動していきます。トランプ大統領に投票した方々は、とてもがっかりしていることでしょう。私自身、何度か選挙で負けたことがあります。でも、お互いにチャンスを与え合おうではありませんか。ののしり合いをやめ、頭を冷やし、互いを見つめ直し、互いの言葉に耳を傾け合う時が来たのです。前に進むためには、相手を敵とみなすことをやめなければなりません。敵ではなく、アメリカ人です。みなアメリカ人なのです。聖書は「なにごとにも時がある」と説きます。「建てる時、植えたものを抜く時、植える時、癒やす時」。アメリカは今、まさに「癒やす時」なのです。

私は誇り高き民主党員です。けれど、大統領として国を治めます。私に投票しなかった皆さんのためにも、私に投票してくれた皆さんのためにするのと同じように、精一杯働きます。アメリカの中で互いを悪魔に見立てるような嫌な時代は、今ここで終わりにしましょう。民主党員と共和党員が互いに協力を拒むのは、制御できない魔力のせいではありません。私たちが決め、選んだことなのです。「協力しない」と決められるのであれば、「協力しよう」と決めることもできるはずです。アメリカの国民が私にそれを託したのだと信じています。国民の利益のために協力することを国民は望んでいます。それこそが私の選択です。連邦議会でも民主党議員と共和党議員が私と同様の選択をしてくれるよう求めていきます。アメリカの歴史は、ゆっくりと、けれども着実に、アメリカで広がってきたチャンスそのものです。でも、間違えてはいけません。あまりにも多くの夢が、あまりにも長い間、かなえられずにいます。私たちはこの国が約束することを、すべての人にとって現実のものとしなければなりません。人種、民族、信仰、出自、そして障害の有無に関係なく、すべての人にです。

(激しいビートに合わせて、「I」から歌い出すブルース・スプリングスティーンは、説得力のある歌唱力で、リスナーに「Where ?」と訊き、そして「Wherever」と諦めに達した後、「We」だと締めくくっている。様々な疑問や色々な不満はあるけれど、「俺たちはこうするんだ!」という強い意志を示したロックだ。“From Chicago to New Orleans. From the muscle to the bone. From the shotgun shack to the Superdome. There ain't no help, the cavalrystayed home. There ain't no one hearing the bugle blowin'. We take care of our own, We take care of our own, Wherever this flag's flown, We take care of our own 皮肉を込めて解釈すれば、「アメリカという国は何にもしてくれない。だから俺たちは自分たちのことは自分でなんとかする」「政府は約束したことを何もしない!」「みんな、全体のことを考えないで、自分のことばかりじゃないか!」「だから俺たちにも責任がある。そして、アメリカという国にはもっと大きな責務がある!」と政府を批判する歌でもあった。)

(実際、スプリングスティーンは、音楽誌のインタビューに応じて、こう答えている。「自分の作品を通して、僕は常に難しい質問を問いかけようと努めてきた。なぜ、世界で最も豊かな国がその最も弱い国民への約束と信義を守ることがこれだけ難しいのか? なぜ、僕らは今もなお人種のヴェールを取り除いて物事を見るのがそんなに難しいと感じているのか? どのようにして僕らは自分たちが大事にしているものを殺すことなくして、困難な時代に対処できるのか? なぜ、人としての約束を実現できそうなのに、永遠に手の届かないところにあるように見えるのか?・・・僕らは記録的な財政赤字を抱え、放課後授業のような行政サービスの予算を縮小し、圧迫している。僕らは国民の1%の最も豊かな層への減税を認め、貧富の差を拡大することによって国民相互の社会的契約を破壊し、『格差のないひとつの国』の約束を押し黙らせている」・・・眩いばかりの壇上に立った白髪の老人が、アーティストの心情をどこまで理解して、この曲を選んだかは不明だったが、ブルースが刻むエネルギッシュなサウンドは、一つ間違うと頼りなさげにみえる、この男の欠点を覆い隠してくれた。強いスポットライトを浴びながら、栄光をつかんだ男は言葉を紡ぎ続ける。)

アメリカは常に、転換点によって形づくられてきました。私たちは何者なのか、私たちはどうなりたいのかをめぐり、難しい決断をした時によってです。1860年のリンカーンは連邦を救いました。1932年のフランクリン・D・ルーズベルトは困難な状況に陥ったこの国にニューディール政策を約束しました。1960年のジョン・F・ケネディはニューフロンティア政策を誓ったのです。そして12年前、バラク・オバマが歴史をつくった時には、「Yes, we can」と唱えました。私たちは再び転換点にいます。絶望に打ち勝ち、繁栄と目標に満ちた国家をつくる機会が私たちにはあります。私たちにはできます。できることがわかっています。私はずっとアメリカの魂のための闘いだと言ってきました。アメリカの魂を取り戻さなければなりません。私たちの国は、善き良心と暗黒の衝動との絶えない闘いによって形づくられてきました。今こそ善き良心が打ち勝つ時です。

今夜、全世界がこの国に注目しています。アメリカは世界の指標になると、私は信じます。私たちは、力を見せつけることによってではなく、私たちが見本となることによって、世界を導いていくのです。私は、「アメリカ」は一つの言葉で定義できるといつも考えてきました。それは、「可能性」です。アメリカではすべての人が自分の夢をかなえる機会を与えられるべきであり、神が与えてくれた力がそれを実現します。私はこの国の「可能性」を信じています。私たちは常に前を見据えています。より自由で公正なアメリカへ。尊厳と敬意ある仕事を生み出すアメリカへ。がんやアルツハイマーなどの病を治すアメリカへ。誰も置き去りにしないアメリカへ。決してあきらめず、屈しないアメリカへ。アメリカは偉大な国です。そして素晴らしい人々。これがアメリカです。私たちが力を合わせれば、できないことなどありませんでした。今こそ一緒に、鷲の翼の上で、神と歴史から託された仕事を始めましょう。全身全霊をかけて、アメリカとお互いを信じ、国を愛し、正義を切望しながら、私たちが目指す国になりましょう。結束した国、より力強い国、傷の癒えた国。皆さん、アメリカでは、私たちがやろうとしてできなかったことは、かつて一つもなかったのです。神は皆さんすべてを愛しています。アメリカに神の祝福がありますように。

15分のスピーチを締めくくった後、歓喜の声が爆発する。壇上の老紳士は誇らしく手を振って、興奮が冷めやらない観客たちに応えた。そう、この男こそが、この物語の主人公である。第46代アメリカ合衆国大統領に就任するはずだったジョー・バイデンであった。・・・)

―― 「24Twenty-Four-《ジョー・バイデン物語》第2話(1/2予定)」に続く。