このニュースで紹介されているロヒンギャの人は、明らかにミャンマーで迫害されているから「難民」として認定されてもおかしくないケースです。ただし、ロヒンギャの人の場合は「ミャンマー人」ではなく、「無国籍」であるため、「入管法上、難民として審査することは困難である」と入管の現場が解釈している(注1)という行政実務上の問題があります(「無国籍=難民=定住者」という流れができると、不法在留外国人が日本で産んだ子どもを「定住者」と認定せざるを得なくなると入管の現場は恐れている:後述)。したがって、現行法上は「難民」というよりも、「在留特別許可」(注2)で救済する道のほうが可能性が高く、そのあたりの法的な事情は改正後の入管法でも変わりません(注3)。

(注1)入管法61条の2は「法務大臣は、本邦にある外国人から法務省令で定める手続により申請があつたときは、その提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定を行うことができる」と定めている。「ロヒンギャは『無国籍』であるため、難民申請を行うことのできる『外国人』と認定することは難しい」というのが、現行における入管現場の法文解釈。ロヒンギャの人で難民認定されたのは、せいぜい20人とも言われている。

(注2)入管法第50条第1項第4号は「法務大臣は、前条第3項(退去強制に該当するという判断に対する口頭審理の後の「異議申出」)の裁決に当たつて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。・・・その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」と定めており、退去強制対象者になった後でしか、「在留特別許可」が認められる可能性がなかった。

(注3)入管法第61条の2の2第2項は、「法務大臣は、前条第一項の申請(難民申請)をした在留資格未取得外国人について、難民の認定をしない処分をするとき、又は前項の許可をしないときは、当該在留資格未取得外国人の在留を特別に許可すべき事情があるか否かを審査するものとし、当該事情があると認めるときは、その在留を特別に許可することができる」として、難民認定が不許可となった場合でも、「在留特別許可」の対象になり得ることを定めているものの、ロヒンギャの場合は「法的に有効な難民申請をしている」と認められることが少ないので、事実上、この「在留特別許可」の対象にはなりにくいという事情がある。

もっとも、今回の入管法改正により、「在留特別許可」については、申請手続が別途整えられることになるため、現行入管法における「収容➡違反調査➡口頭審理➡異議申出➡不許可後の検討」という迂遠な道筋を辿らなくても、「収容➡在留特別許可申請」というプロセスになります。要するに、ロヒンギャの人々にとっては、現行法よりも、改正法のほうが直接ストレートに法務大臣に対して「在留特別許可」の取得を訴えることができるようになるので「取り敢えず改善」と見ることも可能でしょう。上記の事情について一言も触れずに、「入管法の改正は悪い」という印象操作ばかりしている日本のメディアは、本当に信用なりません。

もっとも、この「ロヒンギャ問題=無国籍の人々を入管法上どう扱うか?」という人道上極めて重大な問題について、今回の改正入管法は取り組んでいません。実務上も、「面倒くさい」と思っている入管は、「触らぬ神に祟りなし」とばかりに、オーバースティになってもほとんど収容しません。改正入管法では、収容されなければ「在留特別許可」を申請できない建付けになっていますし、申請できる対象も「外国人(無国籍OK?)」に限られているので、ロヒンギャの人々は、今回の改正でも救われないのかもしれません。もっとも、入管が従来通り「触らぬ神に祟りなし」という行政を続けるのであれば、収容されることも、強制送還されることもない、というポジティブに捉えることもできます。

じつは、この「無国籍の人々を入管法上どう扱うか?」という問題は、不法入国者や不法残留者が日本で産み、出生届を出さなかったために「無国籍」になった外国人をどう扱うか?、という深刻な問題と直結しています。というのは、「無国籍=難民=定住者」という流れがいったんできてしまうと、不法在留外国人が日本で産んだ子どもを「定住者」と認定せざるを得なくなる。そうなれば、日本で子どもを産み、出生届を出さずに子どもを「無国籍」にした外国人の親たちが「子どもを育てるため」という大義の下で「在留特別許可」を取れるようになる。そういう状況になれば、「大挙して出産間近の外国人が入国してくるかもしれない」と入管の現場は恐れているわけです。実際、国籍を「出生地主義」にしている米国では、米国籍を取得するための「出産ツアー」が大規模なビジネスになっていますから、入管の危惧もわからないではありません。

とはいえ、上述した法運営が実態であるにもかかわらず、入管は「外国人とは、日本の国籍を有しない者を指し、無国籍者は外国人である」と対外的に説明しています。そうであれば、ロヒンギャの人たちの難民認定は速やかに許可され、もっと大勢の人が「定住者」になっているはずですが、実態はそうなっていません。先述した無国籍の子どもたちの問題は、別個にどうすべきか整理した上で、ロヒンギャの人たちをどうすべきかは、直視して逃げずに解決すべき問題でしょう(クルド人問題も同様)。このロヒンギャ問題から逃げ回っていることについて、入管は、徹底的に批判されるべきです。メディアは、流行りもののように飛びついたり無視したりするのではなく、入管行政について批判したいのであれば、入管法の詳細と入管実務の実態をきっちりと調べ上げた上で報道すべきです。そうでなければ、根拠薄弱な単なるプロパガンダです。

少なくとも、ロヒンギャの人たちの問題は、根深く長い問題であり、かつ、無国籍の子どもたちをどう扱うかという極めて重要な問題であり、今回の入管法改正に関連付けて軽々しく語るべき論点ではないということだけはハッキリしています。



【読む・観る・理解を深める】
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【ウィシュマ事件の後遺症③】コロナビザは出し続けるし、オーバースティもお咎めなし。
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