私は、金融・経済・経営の分析については多少自信を持っていますが、軍事は専門ではありません。そういう自覚は十分に持っています。ですから、ロシア軍がウクライナ領内に侵攻した後に、ウクライナ情勢を正確に分析するために必要なことは、どの専門家の情報を「参考情報」として吟味すればよいのか(私は、誰かの主張を「信じる」とか「頼る」というアプローチは採りません)という点でした。

ところが、日本の新聞やテレビに出てくる軍事専門家あるいはロシア専門家あるいはウクライナ専門家というのが、あまりにも薄っぺらい。彼らの主張は当てにならないということにすぐに気付きました。というのも、下記①~③の特徴があったからです。
① 専門家なのに、ほとんど主張に差異がない(専門家は現状認識を除けば、意見が割れて当たり前)
② 専門家なのに「あるべき論」に終始する(専門家は「あるべき論」を踏まえた上で政策を提言する)
③ 専門家なのに「正邪」「好悪」を強調し、重視しすぎているため、「勝敗」の分析が歪んでしまう
 (正しいから勝つ、邪だから弱い、悪いから負けるはず、というのは専門家の意見ではない)

特に、「これだけの兵力で、ロシアは攻めてこない」と予測していた軍事専門家たちが、ロシア軍がウクライナに侵攻し、キエフを急襲した際に、「プーチンは狂った。だから攻め込んだ」と解説したのには正直言って心底呆れました。自分の予測が外れた理由を「予測する対象だった人が狂ったからだ」と説明したわけです。この屁理屈は、失敗する経営者に酷似しています。簡単に言えば、「この商品が売れないのは、客がバカだからだ」「商売がうまくいかないのは、世の中がまともじゃないからだ」と公言する社長と同じなのです。

プーチンが狂っているとするならば「このように狂っている」と仮定した上で、「プーチンは狂っているから、次にこう来る。そのためにはこうしなければならない」と読むのが専門家の仕事。「狂っているから何をするかわからない」というのは、「マーケットが狂っているから、何を売ればいいのかわからない」と主張しているバカ社長と同じレベルです。しかし、ウクライナ侵攻を決意したプーチンの演説を全文解読してみると、決して「狂人が書いた文章」には思えませんし、演説で国民に対して発しているオーラはジョー・バイデンの数十倍はあるように見えます。「狂っている」という一言で片付けようとする素人専門家のほうが「狂って」います。

「こんな人たちを当てにしていると現実が見えなくなる」と思った私は、海外の情報を当たりました。しかし、私が使えるのは英語くらいなので、どうしても英米の情報が中心になってしまいます。しばらく調べてみると、英米の主要マスコミの論調が、日本の専門家という人たちが主張している内容とほぼ同じであることに気付きます。より正確に言えば、英米メディアが発信した後に、日本の専門家が似たようなことを言うという「よくあるパターン」にすぎないことが理解できました。

それにしても、英米のマスメディアというのは、日本と比べると意見の幅がかなり広いのが通例なのですが、今回のウクライナ危機に関しては、ほとんどが同じ論調。新聞も、テレビも、雑誌も、SNSも同じ方向に論調を誘導しているように見えます。私の記憶では、イラク戦争のときでも、もう少しは意見の幅があったように記憶していますが、差異がほとんどない。まるで、コロナやワクチンのときと同じような「類似情報の洪水」が生じていました。

そんなとき、ふと気付きました。たまたま、オレンジ革命やマイダン革命の背後で米国が暗躍していたという記事を読んだ記憶があったので、「そういえば、2014年のことについて誰も触れないなぁ」という些細なことに思い至ったのです。そういう見方で、メディアに出てくる専門家の話を吟味していると、全くと言ってよいほど「2014年のこと」について誰も触れない。全くと言ってよいほど触れない。「専門家ではない私が知っていることを『専門家』を自認する人々が知らないはずがない。これはおかしい」という見方に変わり、やや斜に構えて、日本の論壇を眺めるようになりました。

そんなときに、たまたま目にしたのが「オデッサの惨劇」という動画でした。恥ずかしながら、私は、その動画を観るまで、2014年に「そういう悲惨な出来事」があったことを知らなかったのです。ウクライナ国民が、同じウクライナ国民であるロシア系住民をビルを火炙りにして虐殺し、ビルから出てきた人たちをバットやこん棒で叩き殺す。本当にショッキングな映像でした(観たことのない方は、是非観るべきだと思います)。それからは「こういう凄惨な事件があったからには、何か歴史的な背景があったに違いない」と考えながら、情報や材料を吟味するようになりました。

そういう考え方をしながら調べているうちに出遭ったのが、オリバー・ストーン監督の「Ukraine on Fire」と「Reveiling Ukraine」でした。ドキュメンタリーとは言え、映画ですから、始めは割り引いて見ていたのですが、それなりに説得力があります。オリバー・ストーン監督のストーリーにおけるひとつひとつの事実を裏をとろうとして、出逢ったのが Anne-Laure Bonnel というフランス人ジャーナリストが制作した「Donbass」という動画でした。

もしご覧でなければ、この動画は是非見ていただきたい動画のひとつなのですが、最も衝撃的だったのは、ドンバスの人々の苦難にも増して、冒頭で使われた当時のウクライナ大統領ポロシェンコの言葉でした。彼は、国を束ねる大統領の立場でありながら、「ロシア系のやつらには仕事も年金も与えない。子どもは幼稚園や学校にも行けなくしてやる」と公の場で公言していた点です。誰がどう見ても、これは行き過ぎでしょう。それからは、2014年からのドンバス内戦やその発火点となったマイダン革命を詳細に調べ、その背後にいたビクトリア・ヌーランドなどについても熟知するようになりました。

その過程では、当然、アゾフ大隊のことも事実として学びます。実際、2014年当時の動画を検索すれば「Azov」でたくさん出てきますし、国連や米国議会の公的文書にも明記されている「ネオナチ」です。しかし、その頃、日本のマスコミでは完全にホワイトウォッシュされていて、まず触れないか、もしくは「精鋭部隊」と軽く説明するだけでした。ここで私は、「日本のマスコミは事実に触れない。完全に間違っている。当てにしては絶対にいけない」と気付きました。

だとすれば、最も知りたい情報である「戦況」についても当てにならなくなります。日本のマスコミは当てにならないが、米英のマスコミもどうも胡散臭いのです。米国国防総省も、英国国防省も、大本営発表の匂いがプンプンして信用できませんでした。そのときに出遭ったのが、米軍出身で国連軍事査察官を務めたことがある Scott Ritter でした。3月28日のことです。日本では「ウクライナ軍が善戦している」「ロシア軍は苦戦している」という論調で一色に染められていましたが、彼は「ロシア軍が勝つ」と明言し、戦況を具体的かつ緻密に分析していたので、まずは彼の分析を追い駆けることにしました。

Scott Ritter の次に、4月1日に出遭ったのが、元米陸軍大佐で米国防総省のアドバイザーでもあった Douglas MaGreger でした。FOX にも出ている軍事専門家です。ウクライナ戦況の分析は、Scott Ritter に極めて近いものがありました。そして4月3日に動画を見つけたのが、元CIAアナリストの Larry C. Johnsonでした。彼も「ウクライナ優勢」というマスメディアの論調に疑義を唱えていて、侵攻直後にロシア軍がウクライナ空軍を無力化したということを指摘していました。独立した異なる立場の軍事専門家が揃って「ウクライナは敗けている」という分析をしていることを知り、「日本のマスコミのウクライナ戦況は当てにならない」という思いをさらに強くした次第です。

しかし、決定的だったのは、4月12日に Jacques Baud の論文に出遭ったことでした。彼は、スイスの元情報将校ですが、NATO に従軍してウクライナを担当していたことがある本当の専門家です。諜報や戦争やテロに関する著書も数多く出版しています。その彼が「Centre Français de Recherche sur le Renseignement」という軍事専門誌に投稿した論文(4月1日に公表)を読み、その内容の精緻さとで証拠の豊富さに圧倒されました。歴史的な経緯を紐解き、証拠によって裏打ちされた事実を積み上げ、これまで自分なりに調べてきたこととすべて平仄が合っていました。そして、彼も「ロシア軍が勝つ」と断言していました。その後、私は、日本のマスコミのウクライナ情勢に関する報道については、自分なりに裏をとらない限り、一切信じないスタンスに変わりました。

私にとっては、Jacques Baud の論文がほぼ決定的だったのですが、そうはいっても、彼は退役した元情報将校です。Scott Ritter も、Douglas MaGregor も現役ではありません。そういう意味では、現在の軍事事情を完全に踏まえていると言い切るのは、少しためらわれます。ところが私は、5月8日に、オーストリアの現役陸軍参謀大佐である Markus Reisner に出遭います。彼は、現役の陸軍の軍人として「The West has made a serious miscalculation in Ukraine」と明言し、Jacques Baud、Douglas MaGregor、Scott Ritter と類似の見解を披露していました。

さらに自信を深めた私は、日本のマスコミがウクライナ情勢を報じるたびに、その裏をとるために調べるようになりました。そうすると、虚偽というか嘘というか印象操作のオンパレードであることが明らかになったのです。一部のことを大袈裟に言うのは当たり前で、一部のことを全部にあてはめたり、明らかにデマに近いようなことまで、もっともらしく報道していました。直近で言えば、「ウクライナ軍が人々を解放しています」という報道で、兵士が白い腕章を巻いていた(つまり、ロシア軍)というレベルのものが山ほどあったのです。

この間にも、様々な軍事専門家に出遭います。元米海軍情報局の MAX VON SCHULER-KOBAYASHI(5月2日)、ロシアで有名な軍事評論家 Andrei Martyanov(5月11日)、米軍出身の軍事評論家 Jacob Dreizin(6月1日)、米海兵隊出身でCIAの諜報活動に詳しい Brian Berletic(6月1日)がそれに当たりますし、ウクライナ現地で戦況を発信している Gonzalo Lira(4月24日)も貴重な情報源になりました。

彼らがもたらしてくれた豊富な情報を自分なりに分析してウクライナ情勢を認識していくと、日本のマスコミの戦況報告がいかにプロパガンダに塗れているかが手に取るようにわかるようになりました。あまりにも露骨で、あまりにも明け透けなやり方でした。少しの事実を混ぜながら、最後は「ウクライナは善戦していて、ロシアは苦戦している」という刷り込みを行い、ウクライナで被害に遭っている子どもや女性を報じて、反ロシア感情を煽るという手法です。テレビに出てくる専門家と称する輩も、判で押したような西側の narrative を垂れ流しています。

せめて、その論評の中に、Markus Reizner や Jacques Baud、Douglas MaGregor、Scott Ritter などが指摘している「ウクライナが苦戦している理由」が少しでも投影されていて、その論点を指摘した上で反駁するというのであれば、「まあ、専門家としての見解の相違なのかなぁ」と言えなくもなかったのですが、そういう検討をしたという形跡や気配が皆無でした。中には、タブロイド紙並みの発言を平気でする輩もいて、「ロシア軍の食糧は3日で尽きる」とか「ロシア軍の兵器はすぐに枯渇する」などという愚説を真面目な顔で説いていた人たちもいて、すぐに嘘がバレても平気でまた次の嘘を並べ立てるのには怒りを通り越して呆れてしまいました。

それにしても、観ていて哀しくなったのは、テレビに出てくる元自衛隊の幹部の方々の発言です。Markus Reizner や Jacques Baud、Douglas MaGregor、Scott Ritter などと比べると、圧倒的に分析力が弱く、米英の情報に偏り過ぎて、逆に米軍から情報操作されている様子が見え見えです。「これで本当に日本国を護れるのか?」「ウクライナみたいに散々煽られて、戦争になったら武器だけあげるよ、と言われるパターンだな、こりゃ」と思わされる人たちが大多数であることに本当に愕然としました。

無論、米軍と一緒にやらなければならないので、米国政府の narrative に合わせざるを得ないというのはわかります。しかし、そうであれば、テレビなどに出なければいい。「日本の自衛隊って、米国に情報操作されたらイチコロなのね」と国民に思われてしまったら、自衛隊に対する国民の信頼など吹き飛んでしまうでしょう。そういう中で、唯一、全体の風潮に流されずに、自力で分析して地に足の着いた分析をしていらっしゃったのが、用田和仁元陸上自衛隊西部方面総監でした。

本当に用田元陸将がいてくれてよかった。もし、用田元陸将がいなかったとしたら、私は、現状分析という基本中の基本ができない日本の自衛隊に心底から絶望していたと思います。

 



【読む・観る・理解を深める】
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点①】プーチンはなぜ侵攻に踏み切ったのか?
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点②】米国の思惑とウクライナの実情を知る
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点③】ウクライナに駐在した元NATO将校の証言
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点④】軍事専門家の分析と偏向報道を比べる
【ウクライナ情勢を分析する際の留意点⑤】戦争は2014年からずっと続いている
【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編①】渡部悦和元陸自東部方面総監 ・小泉悠東大専任講師
【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編②】伊藤俊幸元海自呉地方総監・川添博史防衛研主任研究員
【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編③】佐藤正久自民党外交部会長・青山繁晴参議院議員
【恥ずかしい専門家たち:ウクライナ編④】東郷和彦元欧州局長・三浦瑠璃国際政治学者
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